PR

 4月21日公開のイギリス映画「こわれゆく世界の中で」(アンソニー・ミンゲラ監督)で、主人公ウィル(ジュード・ロウ)の職業は建築家だ。ロンドン市内のキングス・クロス地区に設計事務所を構えて、同地区再開発の設計・監理に取り組んでいる。映画を見て、ややマイペースすぎる仕事ぶりが気になった。

 大規模なプロジェクトにもかかわらず、官庁やデベロッパーから指示を受けたり、住民を集めて意見を聞いたりする場面はまったくない。「都市景観を変えることでそこに住む人間の生き方も変える」という趣旨の、都市の支配者であるかのようなせりふまで吐いている。

 映画の本来のテーマは、いわばウィルの女性関係の“再開発”だ。ジュリエット・ビノシュとロビン・ライト・ペンが演じるヒロイン2人の間で、いろいろと苦悩したり迷ったりしている。それだけに仕事中のクールな、ちょっと独裁的にも見える態度が印象に残った。

 キングス・クロス地区は、小説「ハリー・ポッター」シリーズで魔法学校行き列車の始発駅として有名になったキングス・クロス駅の周辺だ。映画のパンフレットによると19世紀以来、治安のよくない汚い町だったが、2000年ごろから実際に再開発が進行している。しかもミンゲラ監督はロンドン在住だ。ウィルのような建築家は本当にいるのではないかと想像してしまう。

 ウィルは設計事務所の天窓から泥棒に侵入されたのに、性懲りもなく天窓を残し、再び盗難被害に遭う。事務所の近くで商売をしている娼婦がなかなか痛烈に再開発を批判しても、ウィルは聞く耳を持たず、「下らないことを言うな」とけなすだけだ。怒った娼婦は、彼の車をかすめ取るという手段で報復している。

 さて日本では、映画に出てくるような市街地の再開発を建築家が独裁的に切り回すケースは、まず見かけない。建築物単体の設計さえも、発注者だけでなくユーザー、住民の声に耳を傾けながら、低姿勢で進めるのが一般的になっている。

 しかしながら、日本の建築家のなかにも、本音では大規模なプロジェクトをもっとマイペースに進めたいと夢想している人が少なくないのではないか。どうもそんな気がするのは、政財界に近付いたり、自ら政界への進出を試みたりする建築家が少なくないからだ。

 市街地再開発の盛んな点で、東京はロンドンに劣らない。もしウィルのようなマイペースの建築家が出現したら、今度は日経アーキテクチュアやKEN-Platzが、彼を主役にした大特集を企画したいものだと思っている。