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建築界全体で発注者への啓蒙活動が必要

 現在、CASBEEは国や先進的な自治体で導入されている。官公庁がサステナブルな建築に補助金を付けたり、固定資産税を軽減するといったインセンティブを用意することは有効な策である。また、CSR(企業の社会的責任)の一環として、金融機関がBEE値の大きい建物を有する企業に対して低利で融資する可能性もある。こうしたインセンティブが働けば、CASBEEは趣旨を理解したトップランナーの企業や建築主から、徐々に広がっていくに違いない。

 現に、トヨタ自動車や日産自動車といったグローバル企業が本社ビル建設の際に環境性能の評価尺度としてCASBEEを採用しているのは、指標のブランド化に大きなプラスになっている。環境に関心の高い企業と、官公庁や金融機関等が先行して、市場を引っ張っていく構図が描ける。

 とはいっても、トップランナーに頼っているだけでは、市場に変革をもたらすのに時間がかかりすぎる。したがって、圧倒的多くの一般企業や市井の建築主への啓蒙を建築界全体で実践することが課題になる。昨年12月に開かれた「サステナブル建築普及のための戦略的市場変革」という国際ワークショップで、ブリティッシュ・コロンビア大学のレイモンド・コール教授が「建築を変える前に、人々を変えることが先決。つまり、人々の考え方、価値観、振る舞い、取り組み姿勢を変えなければならない」と指摘していたが、これは市場変革に対する至言だ。

 最近の日本の建築界は、経済合理性の追求が過度に強く、不健全な安値受発注が横行している。厳しい見方をすれば、この事態はこれまで建築界が社会とどれだけ関わってきたかの映し鏡だと言えよう。建築物が単に経済行為の産物であるかのような振る舞いをするビルオーナーや発注者が後を絶たないのは、建築界全体が自省しなければならない面もある。全国各地で由緒ある建物が取り壊しの憂き目に遭っている現実(これも「サステナブル」に反する)も、同根の問題だ。ここでも建築界は地域の建物の維持保全にどれだけ貢献し、建物の価値を市民にいかに知らしめてきたかが問われているのだ。

 こうした事態を打開するためにも、建築実務者は環境問題を論じる前に、あるいは論じると同時に、建築に対する建築主(社会)の理解度を深める一層の努力を、あらゆる局面で実践していかなければならない。建物を計画した瞬間から竣工後の運営・維持管理、解体に至るまでのライフサイクルにわたって、建築主は社会に対する大きな責務――利用者や居住者の安全・安心・快適性の確保、都市環境や地域環境との調和、地球環境への影響の最小化等――を負うことを、プロたる建築実務者は建築主自身に説明しなくてはならないのだ。

 ただ、現代社会の建築に対する理解度が低いからといって、悲観ばかりすることはない。近年の地球環境への意識の高まりによって、地球環境保全に対するコストは必要コストだとの認識が急速に強まっている。社会全体で負担すべき地球環境保全対策に企業が一役買うことは、CSRの観点からもプラスだし、「環境」「サステナブル建築」「CASBEE」といった言葉が、発注者(建築主)と受注者(建築実務者)の共通言語となり、両者のコミュニケーションを促進することが期待される。「環境を持続するために、この建物にはこんな性能が求められ、これだけのコストがかかる」という説明は、建築の不健全な受発注に歯止めをかけるチャンスとも、とらえるべきだろう。

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