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 民間建築市場には晴れ間も見えているなかで、公共建築市場の冷え込みが続いている。先日、国土交通省による2007年度建設投資の見通しを報じた際に、政府関連の建設投資は1999年度以降、減少し続けていることを確認した。特定の公共建築について報じる際にも、二言目には「財政難」と書いているような気がする。5月29日付の大阪府庁本館建て替え再延期、4月18日付の青森県6自治体連合のプロポーザル中止、2月1日付の熱海市新庁舎の着工延期など、いずれもそんな感じの記事だ。

 こんな状況はいつごろから始まったのか。いま思い当たるのは、神奈川県立音楽堂(横浜市西区)の建て替えが中止になった1990年代の中ごろだ。大阪府が1回目の府庁本館建て替え延期を決めたのも96年度だった。

 同音楽堂は、前川国男氏の設計で1954年に完成したクラシック音楽用のコンサートホールだ。同年の日本建築学会賞作品賞を受け、前川氏の初期の代表作になっただけでなく、優れた音響効果で音楽界からの評価も高かった。しかし1990年代に入ると、神奈川県が音楽堂の取り壊しを含む再開発を計画した。建築界からは反対の声も上がった。日経アーキテクチュア1994年5月23日号の記事「有名建築その後 神奈川県立音楽堂」は、音楽堂の取り壊しをめぐって騒然となった建築界の様子を伝えている。

 その後しばらくして、県は主に財政上の理由から再開発の構想を引っ込めてしまう。同誌1996年11月18日号は、県が苦しい財政状況のため、音楽堂と合築した県立図書館を共に保存する方針であることを報じている。

 音楽堂は築50年を過ぎて、いまも現役だ。最近、世界的ヴァイオリニストのギドン・クレーメル氏と同氏が率いる室内管弦楽団のコンサートが開催されたので聴きに行った。コンサートの最初の曲は、マーラーの交響曲の弦楽合奏版だ。少人数の弦楽器奏者による演奏だったが、ふだん録音で聴き慣れている大編成のオーケストラの演奏に劣らないほど、雄弁で色彩的な音楽を繰り広げていた。その響きの何割かは音楽堂の音響効果によるものだったろう。建物の利用者にとって、古い建物の良さを体感した一日だった。

 公共建築の新築は減っても、これから維持管理や補修などの対象になるストックは数限りなくある。バブル期はすでに20年近く前のことなのだ。クラシック音楽の演奏家は、名曲という“ストック”の活用だけで、十分に創造的な仕事をしている。今後は建築実務者にも、ストックの活用にもっと腕を振るってもらいたいものだ。

築50年を超えても現役の神奈川県立音楽堂。合築された県立図書館が左奥に見える(写真:KEN-Platz)
築50年を超えても現役の神奈川県立音楽堂。合築された県立図書館が左奥に見える(写真:KEN-Platz)