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 国土交通省が8月31日に公表した7月の建築着工統計調査では、建築物の着工床面積が前年同月比で22.7%落ち込んだ。改正建築基準法の施行に伴って建築確認の手続きが滞ったことが足を引っ張った一因だ。

 数々の建設会社や設計事務所から確認申請が滞っている状況を聞いていたので、正直言ってもっと落ち込んだ数字が出てくるのではないかと思っていた。改正建基法の施行後に審査が停滞することを見越して、6月20日の施行日の直前に駆け込みで確認申請した物件が着工数を押し上げた可能性がある。8月の建築着工統計調査の数字にも引き続き注目しておく必要がありそうだ。

 建築生産が経済に及ぼす影響は大きい。着工量が落ち込む状況が続けば、好調な経済に水を差す恐れもある。今回の法改正について、国交省は「エンドユーザーの保護」や「建築生産に対する信頼回復」などに結び付ける考えを強調してきた。確かに、これまで取材で会った建築実務者のなかに、建築士の処分情報の開示や違法行為を犯した建築士への罰則強化による消費者保護の施策に反対する人は少なかった。一般のエンドユーザーや発注者も、不良・不適格な建築設計者の排除に結び付く施策には賛同する人の方が多いに違いない。

 半面、構造計算適合性判定制度の創設や計画変更の手続きの厳格化など建築生産システムに加えられた新たな規制がもたらす影響については、賛否が分かれてもおかしくないように感じる。例えば、構造計算適合性判定制度の主要な担い手は県や公益法人で、“官治”を強化した格好になっている。ずさんな構造設計を防ぐ役割を果たすものとみられるが、そのために生じる費用負担は建築の依頼主などにのしかかってくる。

 手続きが煩雑になった分、時間の面でもエンドユーザーや発注者は不自由になる恐れがある。製造業や流通業の企業であれば、経済状況や流行などに応じて工事中に設計変更することは珍しくない。審査の厳格化に加えて、設計変更時の計画変更の徹底に伴って建物の完成までに必要となる時間も長くなる。その結果、資金計画に影響を及ぼしたり、ライバル企業との競争で水をあけられるような事態に陥ったりする恐れもある。マンションの購入者が、間取りを自由に選べるようなサービスも減っていくかもしれない。

 今回の規制について、消費者保護の観点と規制がもたらす不自由さのバランスが、後者に偏っているのではないかと指摘する建築実務者は多い。現場の混乱が顕在化してきたことに対して、国交省は建設関連の団体などを通じた実務者への説明に追われている。しかし、発注者となる産業界や一般の消費者などに対しては、まだ改正法の趣旨とそれが及ぼす影響に対して十分な説明責任を果たしているとは言い難い。官による規制を強化した理由と発注者や一般のエンドユーザーが受ける利益と不利益を、つまびらかに説明し、今後の法改正や運用のあり方について、建築界の外からも意見をくみ取る必要もあるのではないか。