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 デジタルカメラで撮影した写真をパソコンで修正するレタッチ――。本来は、印刷用の製版フィルム上で加筆・修正を行う職人技だったが、デジカメとパソコンの普及に伴い、誰でも気軽に行える処理になりつつある。建築物をデジカメで撮影したときには、様々な補正や加工を施したくなるものだ。

 一方で、電線を消去するといったレタッチは事実のねじ曲げに当たるのでけしからんという意見があったり、ややもすると、レタッチという行為自体に対してまゆをひそめる人がいたりもする。レタッチは、行うことによって表現の幅が広がる一方、その可能性が現実を越えてしまうがゆえに、行為自体が否定的にとらえられることもある。

 しかし、レタッチでできることのなかには、フィルム写真で当たり前のように行うこともある。なので、レタッチすること自体を一様に後ろめたく感じる必要はないと思う。デジカメ写真とフィルム写真がそれぞれ目に見える像になるまでの過程を比較することで、どの程度までのレタッチであれば妥当といえるのか、自分なりに考えを整理してみた。

ゆがみの補正や色味の調整はフィルムもデジカメも同じ

 建築物の写真は、ゆがみが生じないように撮影するのが半ば“お約束”になっている。フィルムカメラの場合は、シフトレンズを使って撮影すれば、水平線や垂直線を平行に見せることができる。デジカメの場合、シフトレンズを使える普及機がないので、一般には撮影後にレタッチを施すことでゆがみを取ることになる。両者の違いは、策を講じるのがシャッターを切る前なのか後なのかの違いでしかない。

 色味についてはどうだろう。例えば空の色は、多くの人が鮮やかな青色をイメージするものの、実際には、日本国内であれば、どんなに快晴であっても薄い青色をしている。フィルムカメラの場合は、フィルムの種類を変えたり、レンズに様々なフィルターを装着したりすることで、意図した色調に近付けることができる。空が真っ青な建築写真を撮影することも可能だ。

 一般にデジカメには、シャッターを切った瞬間に画像を補正する機能が備えられている。カメラまかせのモードにしておけばイメージする青色が得られるが、もしこの機能がうまく働かなかった場合でも、レタッチすればよい。一眼レフなど高機能のデジカメでは、カメラ内部での加工を行わないモードも備えており、こうしたモードでの撮影はレタッチが不可欠となる。

 以上のように、ゆがみの修正や色味の調整などに限ると、レタッチはデジカメが備えていない機能を、撮影後に補う行為と言える。この範ちゅうのレタッチなら妥当だと思う。

電線の消去もいつかは妥当に?

 フィルム写真には難しくデジカメ写真では容易に行えてしまうのが、電線を消去するといったレタッチだ。フィルム写真からすると通常はありえない手法なので(頑張れば可能だが)、胸を張って妥当だとは言いづらい。

 ただ、事実を正確に伝える必要がある報道写真などと異なり、設計者が自ら手がけた建築物の竣工写真をなるべくきれいな状態で記録したいといった場合は、邪魔なものを消去するのもありかと、個人的には思う。広告物も同様だ。

 建築物の撮影には、大判や中判のフィルムを使うことが多く、これに該当する普及価格版のデジカメはまだ存在しない。しかし、いずれは建築写真の分野にもデジカメがごく普通に使われていくようになるだろう。その時には、これまでシフトレンズの利用が当然であってきたように、電線の消去も当たり前になっているかもしれない。