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 沖縄に行ったときの話だ。仕事が終わって、帰りの飛行機までの時間に宜野湾市にある喜友名泉(チュンナーガー)という土木遺産を見た。

 チュンナーガーとは石積みの簡易な水源施設だ。100年以上前に築造された国指定の重要文化財で、いまも水が湧き出ていた。在日米軍の基地内に位置することから、周囲はフェンスで囲まれている。

 名前と大まかな場所しか把握していなかった私は、入り口のフェンスが施錠されていることを知らない。私一人であれば入り口で断念して帰る羽目だった。しかし、現地まで送ってもらったタクシーの運転手が親切な人で、チュンナーガーへの行き方から鍵の開け方まで、周辺の住民に聞いてくれたのだ。あの人がいなければ、チュンナーガーを見ることはできなかった。


フェンスを開けて2、3分ほど坂道を下ると、チュンナーガーが見えてくる(写真:すべて日経コンストラクション)


湧水が流れ出る。カーグヮー(女の泉)と呼ばれている

 せっかくすばらしい土木遺産なのに、鍵の開け方を知らなければ見ることができないのはさびしい。情報不足で遺産を見られないのは残念だ。沖縄から帰ってきてからインターネットで検索すると、フェンスが施錠されていてチュンナーガーを見られなかったという人は数多くいた。

 情報不足に関しては、こんな話もある。

 兵庫県香美町にある余部鉄橋は、2007年3月から架け替えの工事を始めた。この情報だけを聞いて、すでに橋が撤去されたと思っている人が多いらしい。実際には、新たにコンクリート橋が完成するまで鉄橋は存在する。同町の調査によると2007年に余部鉄橋を見に来る観光客は前年に比べて減ったという。観光客への情報提供不足から生じた現象だろう。

 香美町は2007年の夏、余部鉄橋の存在感をアピールすべく橋をライトアップした。私も見に行き、たくさんの観光客でにぎわっていたのを覚えている。


ライトアップされた余部鉄橋

 余部鉄橋は今後の利活用に向けていまも検討している。すべてを残すことは、新橋梁との位置の兼ね合いや維持費などの面から厳しい。観光資源としての価値をどこまで優先するのか難しいところだ。

 知られざる遺産になる前に、そして取り壊される前に、アピールすることが重要だ。土木遺産は、その本体自体のすばらしさは言うまでもなく、その場所の気候や環境などの特性や歴史を感じとれるところに価値があると私は思う。それらの価値をいかにしてアピールするか、私も含めて土木を後世に伝える人がこれから考えていくべき課題ではないか。

 ちなみに、チュンナーガーを見る場合は、近くに喜友名自治会があるので、そこを訪れると笑顔で快く鍵を貸してくれた。土木遺産を有する地域の住民の人柄と触れ合えるのも一つの価値か。