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 諫早湾奥部を締め切る潮受け堤防の二つの排水門を5年間開放するよう国(農林水産省)に命じた6月27日の佐賀地裁判決。漁業不振にあえぐ漁業者ら原告にとって、この判決は大きな前進だ。しかし、課題はまだ山積している。

 まず、国側が控訴すれば開門は実行されない。仮に国側が控訴せずに判決が確定しても、先行きは不透明だ。なぜなら、判決は開門を命じたものの、開門後の調査までは命じていないからだ。司法として「開門調査を実施して、その結果に基づいて適切な施策を講じることを願う」と付言するのが精一杯だった。

 ただし、開門することになれば、農水省は自ら調査しないわけにはいかないだろう。原告側が調査した結果、堤防による締め切りと漁場環境の悪化、漁業不振との間に因果関係があるという結論が出るかもしれないからだ。

 農水省が主体となって開門調査を実施する場合、調査や議論は第三者の組織でするべきだ。第三者組織のメンバーは農水省が選任するのではなく、公募などによって幅広く集めた方がよい。そして、第三者組織が出した結論は、農水省が「参考にする」程度ではなく、原則実行すべきものでなければならない。

 最後に、開門調査を実施することになれば、完了した諫早湾干拓事業を「延命」することになる。事業の経緯をたどると、コメの増産に始まり、畑地造成、防災へと目的が大きく変わった。農水省自身の計算でも投資効率が0.81しかない「無駄な」事業だ。地元は推進派=行政・農業者、反対派=漁業者といった単純な対立構造ではない。

 既存の農業者の多くは新たな農地を欲していたわけではなく、高潮や冠水などの被害に悩まされていたので、防災効果に期待した。行政側は干拓以外の防災対策を講じなかったので、農業者は干拓事業を支持するしかなかった。

 一方、漁業者側は、佐賀、福岡、熊本、長崎の有明海沿岸4県の漁業者が訴訟などで農水省と激しく争ってきたが、最も漁業被害を受けているはずの諫早湾内の漁業者は漁協単位の組織では事業推進の立場をとった。湾内漁業者の多くは、干拓の下請け工事や水産振興策という名の公共事業によって食いつないできた。湾内漁業者の生活の糧を与え続けてきた干拓事業も2007年度で完成。将来に不安感が立ちこめる。

 これまでの経緯を振り返れば、農水省は事業による効果よりも、事業そのものが目的だったと言われても仕方がないだろう。開門調査が実施されれば、付随して新たな公共事業が創出される。公共事業を望む地元経済界にとって悪い話ではない。代替の防災工事を実施すれば、農業者にもメリットがある。そして、開門によって漁場が改善すれば、何より漁業者が救われる。

 このように、開門調査は実は地元にとってメリットが多い。問題は、費用の大半は地元以外の国民の税金で賄われるであろうことだ。開門調査を実施するもしないも、農水省には説明責任がある。