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維持運営と設備更新は年間290億円増

 維持運営費も伊那谷ルートの方が割高だった。南アルプスルートに比べ年当たり190億円高い。路線が長いほど運営に必要な費用が増える。具体的には、列車の走行に必要な消費電力、設備や車両のメンテナンス、事務所費用、公租公課などの増加を挙げている。

 設備更新費も同様だ。伊那谷ルートは南アルプスルートに比べ年当たり100億円高い。駅設備、車両基地、工場、電気設備、車両などの更新や取り替えが、12~40年ごとに必要になるとの前提で算出している。構造物、ガイドウエー、駅舎などは、基本的に少なくとも50年間取り替え不要と想定した。

 維持運営費も設備更新費も額は小さくない。両者を合算のうえ2ルートで比較してみると、伊那谷ルートは南アルプスルートに比べ、年当たり290億円高くなる。50年間で1兆4500億円にもなる。

  南アルプスルート
(Cルート)
伊那谷ルート
(Bルート)
木曽谷ルート
(Aルート)
維持運営費 (年間) 1620億円 1810億円 1770億円
設備更新費 (50年累計) 2兆9100億円 3兆4200億円 3兆3300億円
(1年当たり) 580億円 680億円 670億円
リニア新幹線の想定3ルートの維持運営費と設備更新費 (資料:JR東海の発表を基にケンプラッツが作成)

利用者数は公表値以上に差が開く

 年間の需要は、南アルプスルートが167億人キロ、伊那谷ルートが153億人キロと予測している。リニア新幹線が開業すると、東海道新幹線の利用客の多くがリニア新幹線に転移する。その数を、南アルプスルートはうち122億人キロ(73%)、伊那谷ルートはうち109億人キロ(71%)と想定している。

 JR東海はかねてリニア新幹線と東海道新幹線を一体とみなして経営する方針を示している。東海道新幹線の東京-新大阪間と合わせた輸送量は、南アルプスルートでの建設時に568億人キロ、伊那谷ルートでは565億人キロになるとみている。東海道新幹線の2007年4月~08年3月の輸送量は465億人キロであり、リニア開業で全体として輸送量が2割強増えると予想している。

 リニア新幹線の新規需要は、南アルプスルートが45億人キロ、伊那谷ルートは44億人キロとあまり変わらない。東海道新幹線はリニア新幹線に利用客を“取られる”一方で新規需要も見込んでいる。南アルプスルートで58億人キロ、伊那谷ルートで56億人キロだ。リニア開業後の東海道新幹線は地域輸送にも注力すると、JR東海の首脳が発言している。

  南アルプス
ルート
(Cルート)
伊那谷
ルート
(Bルート)
木曽谷
ルート
(Aルート)
リニア
新幹線

東海道
新幹線
(東京-
新大阪)
  568 565 566
うちリニア
新幹線  
  167 153 156
うち東海道
新幹線から
転移
122 109 111
うち新規需要 45 44 45
うち東海道
新幹線
(東京-
新大阪)
  401 412 410
うち新規需要 58 56 56
現状の東海道新幹線 465(07年4月~08年3月)
リニア新幹線の想定3ルートの輸送需要量 (資料:JR東海の発表と同社への取材を基にケンプラッツが作成)

 輸送量を比較する際には注意が必要だ。単位の「人キロ」は、運んだ旅客数にそれぞれが乗車した距離をかけたものを累積した値。仮に人キロが同じ値であるなら、距離の短い南アルプスルートの方が利用者数は多くなる。

 例えば、伊那谷ルートの輸送量は、人キロでみると南アルプスルートに比べて8%少ない。仮に全利用者が品川-名古屋の直通客だとすれば、年間の利用者数は、南アルプスルートが5839万人、伊那谷ルートが4422万人と算出できる。伊那谷ルートは24%少ない。

 リニア新幹線の運賃・料金は、東海道新幹線の東京-新大阪間の運賃・料金に1000円程度の上乗せを想定している。品川-名古屋間は距離が約7割なので、上乗せ額は700円程度を想定しているという。もし伊那谷ルートでの迂回に割増料金を取らないなら、仮に両ルートの輸送人キロが同じであっても、南アルプスルートの方が収益性は高くなる。