維持管理の怠慢によって運河の堤防が決壊し、大規模な洪水被害を招いた。市民5人に総額72万ドル(約6600万円)の損害賠償を支払え――。日本にとっても決して人ごとではない判決が2009年11月、米連邦地方裁判所で言い渡された。
裁判の原告は、米ルイジアナ州ニューオーリンズ市周辺に住む市民だ。05年8月、ハリケーン「カトリーナ」の来襲で、海抜以下の土地や湿地帯などを流れる運河の堤防が相次いで決壊。市街地の8割が水没し、1800人以上が死亡した。
訴えられたのは、堤防の維持管理を担っていた米陸軍工兵隊。工兵隊は米政府機関の一つで、日本の国土交通省と同じくダムや港湾、河川などの公共事業を中心に、計画から設計、維持管理までを手掛ける。
工兵隊は裁判で、ハリケーンの風雨や高潮が想定以上で免責に値すると主張した。裁判所は主張の一部を認めたものの、東部を流れる運河「ミシシッピ川放水路」の堤防の決壊について、工兵隊の責任を認めた。同運河はメキシコ湾とニューオーリンズ市の内陸にある工業地帯とを結ぶ水運のために、工兵隊が1950年代に建設した。
「過去のハリケーンの被害によって、この運河の幅を2~3倍に広げたり、波浪に対する堤防の強度を高めたりしなければならないことが分かっていたはずだ。工兵隊が無関心のまま対策を施す義務を果たさなかった結果、甚大な被害を招いた」。裁判所の判事はこう指摘した。