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S字を描いて1階から3階まで続く階段。その合間に居室を配したような空間構成がこの住宅の最大の特徴だ。内部に立つ3本の柱に巻き付くように、階段と床が連なり、カーブの向こう側には、「見えない部分」ができる。その「見えなさ加減」が、居心地の良さをつくり出す。建築家の平田晃久氏に、設計意図を聞いた。

――木造3階建て住宅「Coil(コイル)」(2011年10月完成)には、どのような設計意図がありますか。

平田 僕がいつも意識しているのは「建築のウチとソトを混ぜられないか」ということです。人間の生活をひとつの連続する体験の連なりと捉えれば、街と住宅の境目は曖昧になるのではないか――。そう考えるからです。これまでそれを「メビウスの輪」のような形で実現させたこともありますが、Coilではもう少し抽象的なレベルで表現しました。

 敷地は約67m2の狭小地で、間口が狭く奥行きの深い、いわゆる「うなぎの寝床」です。その中央に3本の柱を縦列に並べ、らせん階段と床を連続させて柱に巻き付ける構成としました。玄関から緩やかに上ったり下りたりする動線が続き、丘を越えてピクニックをするように移動していく。家の中でありながら、経験の質としては屋外に近い感覚を味わうことができます。

2階南の居間から北側を見る。動線がS字状に続いているため、回り込んだ先の見え方に変化が生まれる(写真:安川 千秋)
2階南の居間から北側を見る。動線がS字状に続いているため、回り込んだ先の見え方に変化が生まれる(写真:安川 千秋)

アイソメ図。“うなぎの寝床”型の平面に3本の柱を並べS字状に床と階段をつなげた(資料:平田晃久建築設計事務所)
アイソメ図。“うなぎの寝床”型の平面に3本の柱を並べS字状に床と階段をつなげた(資料:平田晃久建築設計事務所)

――何がそうした発想の素になっているのでしょうか。

平田 大阪南部の山がちな地形で育った子ども時代、よく近くの山へ虫取りに行きました。森の中では、木の幹にツタが巻き付き、その葉の上で昆虫が暮らしていたりする。こうした自然界のしくみを建築の設計に生かせば、有機的な空間ができるのではないかと考えています。「柱」をきっかけとして、そこに階段や床が絡まり、家具が絡まり、人の生活も絡まっていくというイメージです。

 2人の幼児を持つ建て主夫妻は、家族4人がひとつの空間で一緒に暮らすスタイルを理想としていました。当初は建て売り住宅も検討したものの、一般的な木造3階建てのプランは、1階から3階がフロアごとに分かれ、階段室が中央にあるために平面的にも分断されているのが不満だったそうです。設計を依頼されたとき、「階段やスロープを生かして、全体が一体となった空間をつくれないだろうか」と相談されました。

 以前から意識していた「ウチとソトを混ぜる」という発想と、建て主のこの要望を合わせ考えた結果、浮上してきたのが「3本の柱に階段を絡めて連続した空間をつくる」というアイデアでした。敷地やコストの条件から必然的に木造3階建てにせざるを得なかったので、「木造ならば長いスパンを飛ばすよりも、柱を3本立てることでスパンを短くするほうが合理的であり、建設費が抑えられる」という思惑もありました。そこで、思い切って敷地のど真ん中に柱を並べたのです。

南側の前面道路に面した外観。室内からは正面の神社の森が四角く切り取られて見える(写真:安川 千秋)
南側の前面道路に面した外観。室内からは正面の神社の森が四角く切り取られて見える(写真:安川 千秋)

1階の玄関ホールから2階に回りこむように続く階段。天井の高さや床の形は場所によって異なる。西側の壁面は本棚として利用している(写真:安川 千秋)
1階の玄関ホールから2階に回りこむように続く階段。天井の高さや床の形は場所によって異なる。西側の壁面は本棚として利用している(写真:安川 千秋)