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大学院時代にSDレビューの鹿島賞を受賞するなど、早くから注目されていた大西麻貴氏と百田有希氏。住宅としては初となる実作が昨年、完成した。東京の下町の狭小敷地に建ち、路地がそのまま建物の周囲に巻き付いて廊下として上っていくような構成だ。どのような経緯でこうした設計が生まれたか、大西氏に聞いた。

――戸建て住宅である「二重螺旋(らせん)の家」(2011年5月完成)は、特徴的な外観が目を引きます。まずは設計の意図を教えてください。

大西 この家の敷地は、大きな土地を分筆することによって生まれた旗竿敷地です。通常の旗竿敷地と異なり、2方向に路地のつながった、いわゆる「二本竿」となっています。初めて敷地を訪れたとき、周りを家に囲まれたとても閉鎖的な場所であると同時に、どこまでも続く道の一部でもあるような、連続的な印象もある土地だと感じました。

 こうした相反する土地の特性から、中心に毎日の居室の入った四角いコア、その周りにチューブ状の廊下を螺旋状に巻きつけていく形が思い浮かびました。廊下は周囲の、東京の下町である谷中の路地のように、物が増えていくことによってより魅力を増す場所にしたいと考えました。チューブの屋根面を屋外の階段として上っていくことができるので、内部の階段と合わせて二重螺旋状の空間が巻きついていることになります。

西側に建つマンションの屋上から全体を見下ろす。前面道路側のアプローチから続く廊下が、白いコアにぐるぐると巻き付いている(写真:安川 千秋)
西側に建つマンションの屋上から全体を見下ろす。前面道路側のアプローチから続く廊下が、白いコアにぐるぐると巻き付いている(写真:安川 千秋)

西側の正面から見下ろす。外壁はスギ板の羽目板張りで、木材保護塗料で仕上げている(写真:安川 千秋)
西側の正面から見下ろす。外壁はスギ板の羽目板張りで、木材保護塗料で仕上げている(写真:安川 千秋)

 外観が特徴的な家ではありますが、将来周囲に家が建つことを考えると実際には外観の無い家、内部空間しか認識できない家、となります。路地がアプローチへつながり、廊下があって部屋へと続き、そのまま再び階段へと接続していくこの家の構成は、普段私たちが連続的に体験している空間をずるずると伸ばして、再び組み立てたようなもの、あるいは記憶の中で認識している空間をそのまま立ち上げたようなものといえないでしょうか。

 マルセル・プルーストの小説『失われた時を求めて』の中で、主人公が紅茶に浸したマドレーヌを食べた瞬間に幼い頃の記憶を呼び覚まされ、ひとつの部屋から、町の広場、空の色、通りまでが数珠つなぎになって現れる――そんな空間のあり方をイメージしています。

北東側からの見上げ。東側の路地へ通じる勝手口を設けている(写真:安川 千秋)
北東側からの見上げ。東側の路地へ通じる勝手口を設けている(写真:安川 千秋)

――土地の与条件などによって、設計上、苦労した点はありますか。

大西 約74m2のとても狭い敷地なので、普通ならば動線はコンパクトにするところです。廊下を螺旋状に巻き付ければ、当然、動線の面積が多くなってしまうので、内部の部屋が狭くなりすぎるのではと最初は悩みました。

 そのひとつの解決方法は、外観では明確に分離されたコアと廊下という構成を内部空間では、どちらかというと曖昧になるように設計したことです。例えば部屋と廊下が一体となった場所をつくることで、コアの中だけでなく廊下も居場所となっていると思います。

 長く勾配の緩い廊下で子どもがボール遊びをするなど、建て主一家はこちらの予想外の使い方を見つけてくれているようです。経路が長く、体験シーンがたくさん生まれることも、通常の狭い、広いという間隔とは異なる不思議な体験の「長さ」を意識させる効果につながっているのではないかと思います。

1階の廊下からダイニングキッチンを見る。コアの内側の壁は滑らかな塗装とし、廊下側はコンクリートの荒々しさを出すなど素材感を感じさせることで空間を緩やかに分けた(写真:安川 千秋)
1階の廊下からダイニングキッチンを見る。コアの内側の壁は滑らかな塗装とし、廊下側はコンクリートの荒々しさを出すなど素材感を感じさせることで空間を緩やかに分けた(写真:安川 千秋)

2階の寝室に通じる階段。開口の向こうに寝室がのぞく(写真:安川 千秋)
2階の寝室に通じる階段。開口の向こうに寝室がのぞく(写真:安川 千秋)

2階寝室わきの図書室。子どもの遊ぶスペースや本棚には廊下を当てた(写真:安川 千秋)
2階寝室わきの図書室。子どもの遊ぶスペースや本棚には廊下を当てた(写真:安川 千秋)