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2010年度、日本建築家協会賞受賞の「木材会館」。11年度、日本建築大賞受賞の「ホキ美術館」。2年連続で日本建築家協会(JIA)主催の栄誉ある賞を受けた日建設計の2作品は、いずれも意匠設計の山梨知彦チームと構造設計の向野聡彦チームが組んで設計したものだ。向野氏の下で、両作品の構造設計を担当していたのが朝川剛氏である。

日建設計の構造設計部門構造設計部で主管を務める朝川剛氏(写真:柳生 貴也)
日建設計の構造設計部門構造設計部で主管を務める朝川剛氏(写真:柳生 貴也)
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ヒノキ材を継いだ大スパン「木材会館」

 「日建設計が木造を手掛けることは少ないが、たまたま自分はいくつか担当していた。木が難しい材料であることは知っていたが、これは特に苦労した」。

 日建設計の構造設計部門構造設計部で主管を務める朝川剛氏がこう振り返るのは、「木材会館」(2009年)の設計だ。東京・新木場に建つこの建物の最上階には、講演会などの催しを行うホールがある。その屋根架構は、当初の設計では鉄骨造だったが、建物に木材を使ってほしいという建築主の強い意向を受けて、木造に変わったという経緯がある。

「木材会館」(2009年)の7階ホール。天井高5.4mで、スパンは24mに及ぶ。大梁は、規格品の角材と伝統的な継ぎ手方法である追っ掛け大栓とを組み合わせて構成した(写真:細谷 陽二郎)
「木材会館」(2009年)の7階ホール。天井高5.4mで、スパンは24mに及ぶ。大梁は、規格品の角材と伝統的な継ぎ手方法である追っ掛け大栓とを組み合わせて構成した(写真:細谷 陽二郎)
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木材会館の西側ファサード。角材を並べて構成している。右側のガラスで覆われた部分がエレベーターなどの共用部(写真:細谷 陽二郎)
木材会館の西側ファサード。角材を並べて構成している。右側のガラスで覆われた部分がエレベーターなどの共用部(写真:細谷 陽二郎)
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 ホールの屋根を支える梁は、ヒノキ材を継いだもの。これが24mにも達する大スパンで頭上を飛ぶ。集成材ではなく一般製材で、これだけの長い梁はほかに例がない。木材の新たな可能性を、この空間は訪れた人々に伝えてくれる。

 実現するに当たっては実験を行った。木材の梁に長期の荷重をかけて、変形の様子を確かめた。すると乾燥による変形が、思った以上に大きいことが分かった。木栓を高周波乾燥させることで含水率を下げたり、木の繊維方向を変えたりするなどの対策で、これを解決している。竣工して3年になるが、今のところ何も問題は出ていない。

 「お客様に迷惑をかけないということが前提だが、できる限り新しいことには挑んでいきたい。やってみて分かることはすごく多いから」と、朝川氏は挑戦することの大切さを語る。

「ホキ美術館」では30mの片持ち構造を実現

 一方、千葉市に位置する「ホキ美術館」(2010年)も大胆な構造の建物だ。これは鋼板製のギャラリーが空中に約30mも張り出し、美術館の存在を強くアピールしている。

 「片持ち構造を成り立たせることは、“せい”がこれくらいあればそれほど難しくない」と言うが、気になるのは先端部が揺れることだ。チューンド・マス・ダンパーという制振装置を入れて、これを解消することにした。設計の上ではこれで大丈夫のはずだが、その効果には不確定な要素もあった。完成してから展示室が揺れ過ぎて使えないとでもなったら、大変なことになる。

「ホキ美術館」(2010年)。張り出し部分を含む上階のギャラリーは、鋼板を溶接してつくった。外壁にはMIO(雲母状酸化鉄)塗装を施した。敷地に高低差があるため、1階の扱いとなる(写真:吉田 誠)
「ホキ美術館」(2010年)。張り出し部分を含む上階のギャラリーは、鋼板を溶接してつくった。外壁にはMIO(雲母状酸化鉄)塗装を施した。敷地に高低差があるため、1階の扱いとなる(写真:吉田 誠)
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写真奥に張り出し部分を擁する鋼板構造のギャラリー。絵画は磁石で壁に固定した。天井にはLED照明を埋め込み、作品ごとに光の当て方を調整している(写真:吉田 誠)
写真奥に張り出し部分を擁する鋼板構造のギャラリー。絵画は磁石で壁に固定した。天井にはLED照明を埋め込み、作品ごとに光の当て方を調整している(写真:吉田 誠)
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 そこで、朝川氏らの設計チームは、揺れが大きくなってしまった場合のことを考え、片持ち構造の途中に後から柱を追加できるよう床版を補強しておくことにした。

 「万が一のことが起こったときにどうするか。それを予め予測し、対応しておくというフェイルセーフの手法を採り入れたもの」。実験的な設計をやる際には、こうした先回りの考え方が大事だと朝川氏は言う。