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 「マイナス10をマイナス5にしようという問題解決型のアプローチって、どちらかというと苦手なんですよ。そうではなくて、ハッピーな良い事例を一つ一つつくっていこう、楽しいことを一つでも多くつくっていこうと思って活動しています」

 昨年、『団地に住もう! 東京R不動産』という書籍をつくっていたときに、著者の一人で東京R不動産のメンバーである千葉敬介氏が語っていた言葉だ。

 この書籍では、緑豊かで広い敷地、まだ健在のコミュニティー、南北に風が抜ける気持ちよい住戸の設計など、古い団地空間の魅力を紹介して「楽しいから住んでみようよ」というメッセージを打ち出した。

 さらに、心地よい空間として現前する古い団地空間の良さを“再発見”したうえで、その空間をもっと楽しくするアイデア、例えば土間のある部屋(関連記事)や、団地1階のにぎわいづくり(関連記事)などを提案している。

 住まい手にしても、必ずしも問題解決がしたくてリノベーションしたり転居したりするわけではない。この書籍に登場した、高尾山近くの館ヶ丘団地(東京都八王子市)に住む吉田さんは、「風景に一目ぼれした」ことが転居の決め手になったと振り返る。代官山蔦屋書店での発刊記念トークショーにゲスト出演した際には、「自宅の玄関からリュックをしょってそのまま高尾山に登りにいく」「あまり都心に遊びに行かなくなりました」と、日々の暮らしを楽しんでいる様子を披露してくれた。

森に囲まれた館ヶ丘団地・吉田さん宅のベランダからの風景(資料:『団地に住もう! 東京R不動産』より 写真:ゆかい)
森に囲まれた館ヶ丘団地・吉田さん宅のベランダからの風景(資料:『団地に住もう! 東京R不動産』より 写真:ゆかい)

代官山蔦屋書店でのトークショーの様子。団地の魅力を語る東京R不動産のメンバー(写真:日経アーキテクチュア)
代官山蔦屋書店でのトークショーの様子。団地の魅力を語る東京R不動産のメンバー(写真:日経アーキテクチュア)

 もちろん、全ての古い団地に緑やコミュニティーが残っているわけではないし、設備や温熱環境、音環境などの問題を抱えている住棟や住戸もあるだろう。そうした問題の解決に向けた取り組みは重要だ。

 だが、これは団地に限らず中古住宅全般に言えることだと思うのだが、従来型の「問題解決」だけでは、市場自体を大きく広げることはできないのではないか。

 例えば、派手なリノベーションの現場を見せることで人気のテレビ番組「大改造!!劇的ビフォーアフター SEASON II」のキャッチフレーズは「日曜の夜、家族の問題が解決します。」だ。では、一旦問題が解決してしまった住まい手に、次に何かを期待できるのはいつになるだろうか。そのうえ、住まいに関する問題解決ニーズが、人々の間でこれから急に高まるとは考えにくい。問題を解決しているだけでは、市場の裾野は広がらないのである。

 メーカー、デベロッパー、建築家、デザイナーを巻き込んで日本の新しい住まいのかたちを提案する展覧会「HOUSE VISION」(会期:2013年3月2日~24日、会場:東京都江東区青海)を企画したデザイナーの原研哉氏は、「日経アーキテクチュア」2012年12月10日号でこう語っている。

 「日本の住まい手は、自分たちのライフスタイルに合った空間を自分たちで考えて、それを工務店や建築家に頼んで実現する能力については、全く育てられてきませんでした」

 「自分で服は作らないけれども、ちゃんと自分でコーディネートして服が買えるような能動性を、家についてもユーザーが身に付ければ、例えばデベロッパーは、決まり切った集合住宅をたくさん供給するだけでは済まなくなります」

 「問題解決」だけを目的に服を買う人の数は、今の日本では少ないだろう。中古住宅市場を拡大するには、服を選ぶように住まいを考えるリテラシー(原氏はこれを「住宅リテラシー」と呼ぶ)の高い住まい手を、もっと増やしていく必要がありそうだ。

 そのために供給者側としてすべきことは、「問題解決」にとどまらない新たな住まい方の楽しみや魅力の提案を、一つ一つかたちにして蓄積していくことではないだろうか。参照すべき事例が多いほど、住まい手の住宅リテラシーは短期間で高まっていくはずだ。