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横浜港の大さん橋国際客船ターミナル屋上デッキで実施した保全工事の様子。デッキ木材の表面の汚れを落とすために、高圧水で洗浄していた(写真:日経ホームビルダー)
横浜港の大さん橋国際客船ターミナル屋上デッキで実施した保全工事の様子。デッキ木材の表面の汚れを落とすために、高圧水で洗浄していた(写真:日経ホームビルダー)

 木造の古い建物を改修して、賃貸や売買に活用する――。住宅のストック活用に関する取材が増えてきた昨今、筆者の頭の隅には、本当に古い建物を生き返らせるということに対するモヤモヤとした考えが生じていた。

 そんなある日、取材をしている最中に担当者から「桟橋のデッキの保全工事があるのだけれど、見に来ませんか」と誘いを受けた。話を聞くと、木製のデッキ塗装を中心とした保全作業だという。既存建物のストック活用のヒントがありそうな気がしたので、カメラを片手に作業現場にお邪魔することにした。

木材の歴史を受け継ぐ

 現場は横浜港の大さん橋国際客船ターミナルだ。屋上には波のように大きく緩やかなうねりがある広大な木製デッキが広がっている。そこにはランニングをする人や、恋人と二人で散歩する人、子供連れでおしゃべりを楽しむ人たちなど、様々な人々が集まる。作業当日は平日だったので、人の姿はまばらだったが、結婚式の記念写真をプロカメラマンが撮影するといった風景が見られた。2002年の竣工から約10年、屋上の木製デッキもほどよく色が落ち着いて、雰囲気がとても良い。

 だが、実はこのデッキ、維持管理である悩みを抱えていた。それは、デッキの木材に生じたトゲだ。あちらこちらに「トゲ注意」と書かれたプレートを掲示しているほか、デッキ内では音声アナウンスで「子供が裸足でデッキを走り回ると、トゲなどでけがをする恐れがある」といった趣旨の呼び掛けをするなど、トラブルが生じないように積極的に注意を促していた。横浜市の港湾局みなと賑わい振興部賑わい振興課に尋ねてみたところ、「デッキでのけが人は年間で100人程度。小さな子供が転んだ際にトゲが刺さってしまうことが少なくない」という。

 デッキに使用している木材の樹種はイペだ。イペは堅く、耐久性が高いのが特徴だが、ささくれなどが生じてしまうと人の肌に引っ掛かってしまい、けがの原因となりやすい。今回の作業では、この対策にもポイントが置かれていたようだ。同港湾局の建設保全部維持保全課によると作業には「既存の木材を利用しつつ、設計者の意図通りに色が落ち着いたデッキの雰囲気も保ったまま、トゲなどの問題も改善する」という条件などを加味。これからも木材などを長期間にわたって利用できるようにといった点も考慮して進められたという。

 この話を聞いていて、モヤモヤとしていた思いが少し晴れた気がした。それは、建物を長く使うに当たって、例えば、建築物の木材が刻んできた歴史と、その風格がつくり出す“アジ”を引き継ぐのも大事な要素の一つだということだ。ただし、単に引き継げば良いというわけではなく、利用者などが抱えてきた悩みを解消してあげることが、さらにその建築物の寿命を延ばすことにつながる。

大さん橋の屋上デッキにつながる入り口付近。とげに対する注意喚起が表示してある(写真:日経ホームビルダー)
大さん橋の屋上デッキにつながる入り口付近。とげに対する注意喚起が表示してある(写真:日経ホームビルダー)

屋上デッキの途中にある壁にも、トゲに対する注意喚起の表示があった。こちらの表示は子供連れの親に向けて注意を促す呼び掛けになっている(写真:日経ホームビルダー)
屋上デッキの途中にある壁にも、トゲに対する注意喚起の表示があった。こちらの表示は子供連れの親に向けて注意を促す呼び掛けになっている(写真:日経ホームビルダー)