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需要は2030年までに4190兆円

 インフラの形成状況については、先進国と新興国でその様相が異なる。先進国については、産業革命を背景とした都市化に対して段階的な整備がなされてきた点に特徴がある。一方で、新興国については、先端のインフラ技術の先取りにより必ずしも先進国のような段階的な整備がなっているとはいえない。今後のインフラの形成・整備については、先進国では老朽インフラの更新の問題が中心であるが、新興国においては都市部の老朽インフラの更新に加え、地方部でのインフラ新設需要への対応と双方の取り組みが必要である。

 インフラ整備の需要は今後も拡大し、整備に要する投資は2030年までには累積で4190兆円に達するといわれている。これらの巨額なインフラ整備投資を狙い、多くの企業がインフラ形成のプロセスに参画することで、インフラ産業が形成される。インフラ産業は基本的には、案件の組成機能、ファイナンス機能、インフラの建設機能、事業運営・管理機能、および周辺機能などに整理される。

(図1)インフラ形成ニーズとインフラ産業の進展
インフラ形成ニーズとインフラ産業の進展(出所:日本総合研究所『インフラ産業2014-2023』(日経BP社))
出所:日本総合研究所
『インフラ産業2014-2023』(日経BP社)

 インフラ産業は今後も成長が見込める有望なセクターであるが、インフラそのものが形成されるためには、多くの前提条件がある(図1)。前提条件として、(1)マクロ経済環境、(2)天然資源の偏在、(3)新興国の投資資本の流入、(4)グローバル・バリューチェーン、(5)都市化、(6)複合型都市開発、(7)環境配慮型社会、(8)気候変動の各要件がある。以下、それぞれについて概説する。

  • (1)マクロ経済環境:インフラ形成は、マクロ経済と深く関連している。これはインフラ形成に必要な財源の側面だけでなく、人口や都市化といった観点からインフラに対する需要が展望できるからである。世界的には人口はいまだ増加基調にあり、2030年までには84億人に達するといわれている。一方で、人口増加はASEAN(東南アジア諸国連合)、インド、アフリカなどの新興国が今後主体となり、人口増加に応じて経済も成長するとともに、当該地域においての都市化も進むと思われるため、相応のインフラ形成に対する需要が発生すると思われる。
  • (2)天然資源の偏在:経済成長において、重要なファクターは当該国、地域における資源の存在であり、食料、水、天然資源の発掘・開発などの獲得は重要な政策テーマである。特に、経済成長に必要なエネルギー確保のための資源獲得は、各国にとって大きな課題である。しかしながら、これらの資源、特に石油を中心とした化石資源は中東、中米など一部の地域に偏在していることが現実である。これらの資源の偏在や、将来の枯渇リスクなどに備え、近年ではシェールガスなどの開発が進みつつある。
  • (3)新興国の投資資本の流入:今後インフラ需要が見込まれる新興国においては、政府に十分な財源の確保が困難である。そのため、政府間援助などの措置があるが、新興国政府は経済発展を加速させるため民間資金の導入についても積極的である。リーマンショックやユーロ経済危機の影響で、一時は民間資金の流入は減少したものの、現在は回復基調であり、2012年度においては1220億米ドルの資金が新興国に流入している。
  • (4)グローバル・バリューチェーン:グローバル化の進展に伴い、先進国は資源の獲得やコスト効率化のため、新興国に生産拠点を移すなど、バリューチェーンをグローバルに展開してきた。これらの動きは今後も進むとともに、新興国の経済発展による生産地から消費地へのシフトなど、バリューチェーン構造も大きく変動する。新たにグローバル・バリューチェーンに取り込まれる、もしくは、その役割が変化するなど国や地域での分業の枠組みを見直すことにより、各地域においてのインフラも再構築が必要である。これらの再構築ニーズを実現させるため近年は複数国をつなぐ経済回廊の計画が存在する。
  • (5)都市化:経済成長と人口増加の相関は言うまでもないが、都市化もまた経済成長と正の相関関係にある。また、一般的には都市化に伴い各種のインフラ整備が伴うため、固定資本形成額が増加する。近年は、新興国において都市部への人口流入と、都市部の人口密度の上昇が顕著である。アジアにおいては、バングラデシュやミャンマーなどがこれに該当する。
  • (6)複合型都市開発:都市化については前述の通りであるが、近年においては、特に環境・エネルギー問題への対応、地域振興・産業創出、さらには都市部での需要創出など複数の目標を達成しうる都市のあり方が求められつつある。インドの「OMEGAプロジェクト」などがその一例である。
  • (7)環境配慮型社会:都市化や経済回廊への対応に伴うインフラ形成が進む一方で、地球温暖化や環境汚染、さらには生態系への影響などのリスクもまた発生し得る。これらについては国家を超えた枠組みで取り組む必要があり、気候変動や生物多様性などについての議論がなされている。また、これらの枠組みへの取り組みを加速させるための仕組みづくりも進んでいる。
  • (8)気候変動:前述の環境配慮型社会の中でも、議論と取り組みが進んでいるのが気候変動に対する取り組みである。特に地球温暖化への対応として、温室効果ガス排出量の削減の取り組みが多国間で協議されている。具体的には京都議定書があり、現在は第2次約束期間に入っているが、主要国すべてが参加しておらず、2020年以降の枠組みが不透明であるなどの課題もある。これら気候変動への対応のためインフラ整備においてもBAT(best available technology)などの考え方が求められている。

(第2回は3月7日(水)に掲載する予定です。)

[参考]日経BP社は2013年12月、新興国へのインフラ輸出または拠点進出を検討する日本企業に対し、今後10年のインフラ産業の動向をまとめた産業予測レポート『インフラ産業 2014-2023』を発行した。インドや南アフリカなど25の新興国における産業構造や主要なプレーヤーの動向、国の政策・計画を網羅するとともに、電力・ガス、水、運輸交通、情報通信など、産業ごとに中長期の将来像を見通した。
詳細は、http://www.nikkeibp.co.jp/lab/mirai/megatrend/infra-ind.html
なお、3月14日に「インフラ産業2014-2023」発刊記念セミナーを開催する。
時吉 康範(ときよし よすのり)
日本総合研究所 総合研究部門 社会・産業デザイン事業部 グローバルマネジメントグループ ディレクター兼プリンシパル
時吉 康範(ときよし よすのり)石油化学メーカーで新規顧客開拓、新規事業の企画・開発、海外マーケティング・アライアンス交渉などに従事後、株式会社日本総合研究所入社。グループディレクターとして、インドを中心とした環インド洋諸国・環ベンガル湾諸国に焦点を当て、日本企業の事業化を促進するために、日本の制度輸出、事業案件発掘、2国間の相互理解の運営などを支援。 プリンシパルとして、大手BtoBメーカーの成長戦略策定と実行支援、特にコーポレート部門の研究開発戦略、新規事業開発戦略、技術経営人材育成などを支援。英国国立ウェールズ大学経営大学院「技術経営戦略」「イノベーションマネジメント」講師。