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契約書の捺印を先送りし続けた発注者

 設計事務所の代表によると、契約書を交付していたにもかかわらず、発注者は「来月には捺印する」と繰り返し、契約書の締結を先送りし続けた。判決文によると、ホテル運営会社に対する銀行の融資が確定していなかったことがその理由だ。

 最終的にホテル運営会社は07年5月、設計事務所に「金融機関の決裁を得ていない段階で建築確認申請の事前手続きを行うことはできない。改正建基法施行前に確認申請できなくてもやむを得ない」と告げた。そこで設計事務所は、その時点までに完了していた基本設計料の支払いを求めたが、ホテル運営会社が支払いを拒否したため、提訴に至った。

 地裁が設計事務所の請求を棄却したのは、設計業務委託契約が成立しておらず、設計事務所の作成した基本設計は最終案ではなく、企画段階だったと判断したからだ。

 地裁は、設計事務所が各種計画案や図面を作成してホテル運営会社に提示し、「相応の労力・経費をかけていた」ことや、ホテル運営会社が設計事務所の提示した計画案に異議を述べなかったことを認めている。しかし、設計事務所の計画案が「後日修正がされるなど、最終的な計画案であったとは認められない」ことを重視。計画案が確定しなければ銀行との融資に関する協議を進められないので、ホテル運営会社が銀行と融資の具体的協議を進めなかったことは不誠実な対応ではないとした。

 設計報酬額は最終計画案の規模や工事金額などによって左右されるから、最終計画案が確定していなければ契約が締結されたと推認できない。また契約書に捺印もされていなかったのだから、「設計・監理の業務委託契約が明示的にも黙示的にも成立したと認めることはできない」と結論付けた。