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高裁も「各種図面の作成は営業活動」と判断

 地裁はもう1つ興味深い見解を示している。まず、「建築工事の設計・監理業務を営む者は、民間の建築工事の企画段階で作業を終える場合には報酬を請求せず、また、企画とその後の設計との区別が困難な場合がある」と判断。そのうえで、ホテル運営会社が設計事務所と打ち合わせを重ね、図面を受け取り、07年6月までに確認申請を予定していると認識していても、ホテル運営会社側に「信義誠実に反する行為があったとまでは認められない」と述べた。

 東京高裁も10年10月6日の控訴審で、同様の判断を示している。高裁はまず、「建築設計会社が、建築設計業務を受託する可能性のある顧客に対し、その建築希望を聞いて、大まかな予算、規模、工程などの事業方針、設計条件などを検討整理し、図面などを作成して、希望に沿う建築物のプランを提案し、これを建築するよう勧誘することが行われるが、これは建築設計会社の営業活動の1つと考えられる」との見解を示した。

 また、「営業行為の報酬を求めることはなく、また、建築物の建築にまで至らなかったり、ほかの建築設計会社の提案が受け入れられたりして、建築設計業務委託契約の締結にまで至らなかった場合は、建築設計会社は顧客に対し、営業行為の報酬請求を行わないのが通例」と断じた。

 そのうえで設計業務委託契約書が作成されておらず、設計事務所が提案したプランを実行する予算の裏付けがなく、収支予想を含む事業計画が作成されていない点を指摘。「各種の図面を作成し、これらを被控訴人に提示しているが、これは営業活動として行われたものであって、これを超えるものとは言えない」として、設計事務所の設計報酬の請求を棄却した。