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 これまで何度か東日本大震災の被災地を取材したなかで、忘れられない言葉がある。宮城県気仙沼市舞根(もうね)2地区の高台移転事業を進めている地元のリーダー、畠山孝則さんの言葉だ。

 2011年11月、気仙沼市から住民に高台移転事業の原案が示されたときのこと。高台移転の造成費用が1戸当たり1億円を超えることを知った畠山さんたち住民は「これほどのお金があれば、仙台の一等地に家を建てられる。こんなに必要か」と市の担当者に聞いた。返ってきた答えは「心配いりません。国が事業費を全額負担しますから」。そのとき、畠山さんはこう切り返したという。「国が財政難で大変なときに、われわれのためにこんなに税金を投入してもらうのはもったいない。もっと安くできないか」

宮城県気仙沼市の「舞根地区防災集団移転促進事業期成同盟会」の畠山孝則会長。舞根2地区の高台移転事業のまとめ役を務めた(写真:日経アーキテクチュア)
宮城県気仙沼市の「舞根地区防災集団移転促進事業期成同盟会」の畠山孝則会長。舞根2地区の高台移転事業のまとめ役を務めた(写真:日経アーキテクチュア)

 その後、市の高台移転計画がなかなか進まなかったこともあり、畠山さんたちは自前の高台移転計画を作成して市に逆提案した。首都大学東京の横山勝英准教授に依頼し、もっと安い費用で高台移転ができないか検討してもらったのだ。横山准教授は、高台の標高を高くして切り土量を大幅に減らし、さらに切り土で発生した残土を盛土に再利用する案を提示。1戸当たりの工事費を3500万円まで抑制した。

 気仙沼市は横山案を原案として採用し高台移転事業を開始。最終的に労務費や材料費の高騰もあって、高台移転の事業費は1戸当たり約5000万円台まで上昇した。それでも、当初の計画に比べれば約半分だ。