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「図面作成は営業活動」──。このように判断した宇都宮地方裁判所2010年3月4日判決と、東京高等裁判所10年10月6日判決を取り上げた1月26日付の記事「『図面作成は営業活動』と設計料の請求を認めず」は大きな反響を得た。これらの判決に対して、建築紛争に詳しい弁護士の福田晴政氏は、「契約書が作成されなくても、申し込みと承諾があれば契約は成立する」という原則に基づき、「計画案作成についての申し込みと承諾があったのであり、計画案作成は営業活動ではなく、設計契約の内容になったと考えるべきだ」との見解を示す。契約はどのようなときに成立するのか。契約時はどのような点に注意すべきなのか。福田弁護士の見解をもとに解説する。(日経アーキテクチュア)

 1月26日に「ケンセツ的視点」で公開した「『図面作成は営業活動』と設計料の請求を認めず」は、読者から非常に大きな反響を得た。契約書をかわしていなかったとはいえ、設計事務所がホテルの平面図や断面図、居室プランなど多数の図面を作成したことを、無償の営業活動と判断した判決の衝撃は大きかった。

 ひとまずここで、判決文をもとに事件の経緯を振り返りたい。

基本設計料1980万円の支払いを拒否したホテル運営会社

 既存ホテルの改修・増築を計画したのは、首都圏のホテル運営会社だ。融資を受けるため銀行に相談したところ、改修・増築計画案の提出を求められた。そこでホテル運営会社は03年2月7日、X設計事務所に融資を受けるための計画案の作成を依頼した。

事件の構図。一審の宇都宮地方裁判所、二審の東京高等裁判所とも、原告の請求を棄却した(資料:判決文をもとに日経アーキテクチュアが作成)
事件の構図。一審の宇都宮地方裁判所、二審の東京高等裁判所とも、原告の請求を棄却した(資料:判決文をもとに日経アーキテクチュアが作成)

 同社は複数の計画案を作成し、ホテル運営会社に提示した。06年12月6日には最終プランとしてA案を提出。それに基づく各階平面図や全体工程表、概算工事費なども提出した。両者は何度も打ち合わせを重ね、X設計事務所は宴会場レイアウト図など様々な資料を提出した。

 事態が急変したのは07年5月19日のことだ。X設計事務所はこの日、改正建築基準法の施行前に建築確認を申請する方針をホテル運営会社に伝えた。するとホテル側は「銀行の決済を得ていない段階で建築確認申請の事前手続きはできない」と回答した。X設計事務所は「基本設計は完了している」と主張。基本設計料を支払うよう求めたが、ホテル運営会社はこれを拒否した。

 そこでX設計事務所は、「遅くとも最終案を提出した06年12月6日までには設計・監理業務委託契約を黙示的に締結した」として、「基本設計料」約1980万円の支払いを求めて、宇都宮地方裁判所に提訴した。