中心市街地の商業ビル再生、まちなか居住を視野に
広瀬 毅|建築設計室
ひろせ・たけし:1961年石川県生まれ。1985年横浜国立大学工学部建築学科卒業後、新長野設計を経て98年に現事務所設立
2004年に元は貴金属店だった「リプロ表参道」、05年に地元の出版社であるまちなみカントリープレス(当時カントリープレス)が倉庫を利用して開設したオフィスと、その下階に入る「hiyori CAFE」といった改修プロジェクトに建築家として関わりました。リノベーションという言葉が、まだ一般的ではなかった頃です。中心市街地の目抜き通り沿いでも、周りには空き店舗の目立つ時期でした。取り壊すという選択肢もあったと思いますが、タウン誌を編集していた荒川清司さん(現まちなみカントリープレス主宰)を通じて京都や神戸の建築再生事例を見たり、海外の先進事例を知ったりする機会を持ち、私自身は残して使うことの可能性を感じていました。
前後して、門前町の空き家を活用してビジネスの拠点を持つ動きが起こったわけですが、それぞれが分散した小規模の動きなので、まち全体を経営的な視点で見ることはできていなかった。それは変えていかなければいけないと考えています。
改修して10年たったリプロを昨年一部リニューアルして、コワーキングスペース「CREEKS COWORKING」を開設しました。自分の拠点をカネマツからこちらに移して、運営も仲間と手掛けています。リプロはそれまでの間も全フロア埋まっていて、特に4~5階の共同住居4室は入居者が途絶えたことがありません。中心市街地のビルに住みたい、という需要は長野にはかなりあると実感しています。
現在、倉石(智典)さんが続けてきた活動の成果に長野市が関心を持ち、より南側の中心市街地にも広げていきたいということで動き始めています。そうすると善光寺界隈の木造民家とは違い、リプロのような普通の商業ビルの空きフロアの活用が主眼になってくると思います。空きビルの活用が進めば、まちに入ってくる層にもまた変化が生まれるでしょう。住居への転用を含めて、建築設計事務所のノウハウが生き、ビジネスにもなり得る状況がやっと来たのかな、と。
リノベーションのビジネスに踏み込んでいくと、もはや旧来の設計事務所は要らないんじゃないかと思うこともあります。ビジネスのスキームそして事務所業態を無駄のないものに変えていく新たなフェーズを迎えていると感じています。(談)