「長野・門前町のリノベーションまちづくり」考察
木下 斉
エリア・イノベーション・アライアンス代表理事、公民連携事業機構理事
1.自律的な小規模集積が持つ可能性
長野市のまちを訪れたのは10年ぶりになるが、想像した以上に、既存建築物の活用による小規模ビジネスの集積が進んでいた。
まちで入手できるパンフレット(古き良き未来地図)によると、60近くのリノベーション事例が、一定のエリアに集まっている。これらの大半は行政が推進したものではなく、民間の側からの自律的な動きである。5~6年のスパンで小規模集積を着実に進めてきた結果、気付くと、まち自体が変わっている。こうした状況まで持っていける、ということだ。
ひとつずつには非常に手間がかかっていると思うが、従来の不動産会社とも建築設計事務所とも違う、むしろ両面から関わるスタンスで定着を図っていけば、すぐに解体したり、すぐに駐車場にしたりといった状況と闘うことができる。その時に、倉石(智典)さんが取り組んできたような不動産仲介からリノベーション施工までの一貫した業務の枠組みや、そのために必要となる時間軸を理解しなければいけない。一気呵成に同じことをやればうまく行く、というものでもない。
また、路地裏に魅力的な店がある点にもポテンシャルを感じる。路地裏が強くなってきているまちには未来がある。そこで事業を始めたビジネスオーナーが後にメインストリートに進出してくるという予備軍が育っているからだ。今後、新陳代謝が正常に起これば、まちはどんどん魅力的になっていくはずだ。
何より、全体の方向性やレベルを決める上で、長野・門前町の場合は、タウン誌に関わる荒川(清司)さんと建築家の広瀬(毅)さんが国内外の時代の変化を感じ取り、10年前の時点で既にリノベーションという選択肢があるのだ、ということを示したのも大きなきっかけになった。減点方式で考えて「ないもの」を埋め合わせしようとする真面目くさった計画行政的なアプローチを取ると、まちはつまらないものになる。むしろ遊び心がある、センスを持った人が選んだ「地元のあるもの」で未来の方向性を自ら示す、という姿勢がよい結果を招いている。
2.集積の次に目指すべきステップ
目立った動きとなって6年たつということなので、10年目に向けて次なる事業スキームに移りたい頃だ。木造の空き家を使っているあいだは「ゆるいよさ」があったと思うが、提供側が構造部分などを先行投資して、それを家賃で回収するため薄利の側面もあるので、メンバーのライフステージに合わせてビジネスの基盤を堅牢にしたほうがよい。これまでの方法だけにこだわらず、非連続のステップアップに踏み込む時期が来ている。
まず、ここまで中小集積したのだから、エリア全体を見渡して複数を統合的に管理する考え方を取り入れるのがよい。いきなり全てをひっくり返す必要はないので、徐々に中規模のビルなどにも対象を広げる。その時に、「長野アセットマネジメント」のようなまち会社の創業を目指して“旗を立てる”のが大切だ。
熱心な数人で、自主的に集まり、自分たちの持っている資産の棚卸しをしてリノベーション、統合管理の方向に動く。そうした勝手に開催した本気の事業検討の会合に来る不動産オーナーこそが本物で、動員をかけられてやって来て、たいして自分の資産の棚卸しもしないオーナーを入れても、ネガティブな雰囲気が生まれてかえって害になる。
事業の段取りが整ったら、小さく会社をつくり事業をスタートする。経済・経営の論理で議論が進み、世代交代後のキッカケになることも大切である。早めに動かなければ、世代交代の際に古い不動産は単に処分してしまうことにもなりかねない。となると、駅前から善光寺までの辺りであれば普通のマンションなどに建て替えられてしまって終わるだろう。
具体的には、まち会社としてビルの空き床を活用してリノベーション・転貸を手掛けて売上を立て、新たな店舗をまちに呼び込む。さらに複数ビルを統合してエレベーターの管理、セキュリティ契約、ごみ処理契約などの共通化を図り、建物管理コストを圧縮した分からも売り上げる仕組みをつくることができる。いずれ躯体や設備などのインフラを整備する費用を捻出するためにも、エリア全体のアセットの価値を上げる=利益を確保できるような経営モデルに移行する視点は欠かせない。不動産オーナーとの具体的な連携にもつながり、一緒に新しい事業を始めよう、という話もしやすくなる。
失敗をおそれず、やらないよりはやったほうが明らかにまちに対するインパクトをもたらす。