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3.行政との連携、公共空間との融合

 アセットマネジメントの考え方を導入してエリアの価値を上げる際に、地元の役所にも関わってもらい、エリア内の公共空間を一緒に扱っていける形にできれば、さらに価値を引き上げていくことも可能になる。

 地元の地権者が集まり、行政に依存せず旦那衆的にまちを盛り上げようと自立した民間として事業に取り組み始めれば、結果として行政も協力的になる。エリアの各ビルは私有財産であるが、共有部である道路、公園といったものは当然行政財産である。共用部である道路や公園の活用が可能になると、私有財産であるビルの再生だけにとどまらないエリア価値の向上につなげられる。各路面店が店先を活用したオープンな飲食店舗などを可能にしたり、公園を活用してビアガーデンのような夏の企画などを開催したりすることによってエリア全体の活用度を上げられる。

 ちなみに行政に対しては、民間は自分たちで計画を立て、動き出し、その流れに参加してもらう形式が最適と言える。このビルを使って、この事業をやる、このスケジュールで進める、といった明確な計画を立てる民間主導モデルが大切である。行政はあくまでそこに参加して、先のような自分たちでできる利活用規制緩和などで協力する。民間主導行政参加である。

 当然、私たちが投資・経営しているまち会社がある地域でも民間が覚悟を決め事業投資しているし、さらに機動力のある公務員がいるまちでは、エリアの変化は速い。重要なのは民間が先を走り、行政は適宜フォローする立場に回ることである。行政に地域の再生計画を立てさせ、予算を捻出させることを当然とするような行政依存型民間しかいないエリアは衰退する一方である。

 決め手は行政の政策なのではなく、実は民間がどう覚悟を決めて先に動き始めるか、というほうにある。少なくとも不動産オーナーにとってエリアの価値の上下は自ら保有する不動産の価値に直結する。一方、行政からすれば市域全体を見た際のone of themのエリアに過ぎない。民間から動くことは極めて合理的なのである。

4.先行事例との比較

 リノベーションによる小規模ビジネスの集積がうまく起こっているまちというのは、一度「地獄を見る」ところまで落ち込み、そこから復活してきた場合が多い。製鉄のまちだった北九州市、山陰の商都だった米子市などは、20世紀末になって衰退に悩まされた末に、反転して攻勢に出た事例だ。

 リノベーションスクールの発信源として知られる北九州市は、再開発などによってまちが死にかかったという経験を経て、企業誘致などではなく現在の小規模集積の成果を生み出している。市による「小倉家守構想」、そしてまち会社が設立され、その事業企画促進のために機能するスクールが組み合わさって機能しているが、それ以前に小倉魚町の商店街の機動力のある1人の不動産オーナーが自らの不動産を活用して動き始めたのが、トリガーになっている。着火材となる覚悟を決めた人物は欠かせないのは明らかで、その点は長野にも似ている面はある。

 民間が主導する小規模分散型のリノベーションまちづくりの原型としては、東京・東日本橋界隈を舞台とするCET(セントラルイースト東京)の取り組みが初期の事例として知られる。アート・デザイン・建築の複合イベントとして10年以上継続し、東京R不動産をはじめ様々なプロジェクトが世に輩出された。一方で、複数物件を統合的に管理・運営する方法は取られず、個々の不動産オーナー、テナントが分散して進めていくというカタチとなっている。それもひとつの道だが、個人的にはやはりエリア価値向上には個々は分散しつつも、統合できる業務は統合するという二面作戦が有効であると思う。

 リノベーションによるエリア価値向上は、民間主導で動き、個別の不動産にまちの次世代を担う業種・業態に入ってきてもらう。最初は小さく始めて少しずつ増加、集積させていく。その後は範囲の経済を意識し、エリア単位で統合可能な業務は統合し、金融面でも合同して資金調達・投資をすると経済的にも優位性を確立できる。

 今の長野・門前町は、まさに今、分散のままいくか、エリアでの経営を試みるか、その分岐点に立っていると感じた。どのような道を選ぶのか。今後の行方を見守りたいと考えている。