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インダストリアルデザイナーの山中俊治氏は、2012年から13年にかけて、慶応義塾大学で「防災情報社会のデザイン」をテーマに授業を行った。国家政策ともコミュニティーのローカルな活動とも異なるアプローチから、防災におけるデザインの役割、考え方などについて語ってもらった。


やまなか・しゅんじ<br>1982年東京大学工学部産業機械工学科卒業後、日産自動車デザインセンター勤務。1987年よりフリーのデザイナーとして独立。慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科教授などを経て現職。慶應義塾大学環境情報学部客員教授も務める。著書に「デザインの骨格」(日経BP社)など(写真:加藤 康)
やまなか・しゅんじ
1982年東京大学工学部産業機械工学科卒業後、日産自動車デザインセンター勤務。1987年よりフリーのデザイナーとして独立。慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科教授などを経て現職。慶應義塾大学環境情報学部客員教授も務める。著書に「デザインの骨格」(日経BP社)など(写真:加藤 康)

――山中さんは昨年から今年に掛けて、慶応義塾大学湘南藤沢キャンパス(SFC)で「未踏領域のデザイン戦略」の授業を行いました*。テーマは「防災情報社会のデザイン」です。どんな内容の授業だったのですか。

山中 最終的にプロトタイプを製作するというものでした。授業ではとにかく毎週毎週、学生がアイデアを持ってきてプレゼンする。それに駄目出しするというのをひたすら繰り返しました。

 一緒に担当した佐藤可士和さんが何度も授業で言っていたことですが、優れた着眼点というのは、つくり込まなくても、それを示しただけで「ああ、だったらこんなこともできるよね」と急に膨らむものです。なので、そこを発見するまでは簡単にモノを作っては駄目だという方針でした。

――最終的に発表されたプロトタイプのうち、体育館の床に最初から避難時のパーソナルスペースをパターンとして埋め込んでおく「Personal Space Flooring」が特に印象に残りました。

山中 学生たちは最初、避難所を盛り上げるためにコミュニティー誌を作るなどのアイデアを持ってきました。そこからさらに、もっと誰もが問題と感じること、切実なことはないかと探っていった結果、気付いたのが「状況が混乱している最初の3日間がとてもつらい」ということでした。もちろん物資も大事ですが、それとは別にプライバシーのない混乱している状態のままではなく、少しでも自分の空間が分かるような何かが最初の3日間に必要ではないかと考えていきました。

 結局行き着いたのがパーソナルスペースが分かるパターンを体育館の床にあらかじめ付けておくこと。最初に避難した人たちは、そこに人を配置するだけである程度の個人の空間がつくれる。パーティションも検討しましたが、それもいらないかもしれない。そういうことに気が付いたわけです。

「Personal Space Flooring」――避難所ストレス軽減をあらかじめセットする。床に直接埋め込んだパターンが、発災直後から仕切りとして視覚的に機能する。最低限の個人スペースとして面積約1.6m2、長辺は1.9~2mの菱形を組み合わせる(慶応義塾大学の資料を基に編集部で一部加工)
「Personal Space Flooring」――避難所ストレス軽減をあらかじめセットする。床に直接埋め込んだパターンが、発災直後から仕切りとして視覚的に機能する。最低限の個人スペースとして面積約1.6m2、長辺は1.9~2mの菱形を組み合わせる(慶応義塾大学の資料を基に編集部で一部加工)

――空間の提案としては、大ざっぱに逃げる方向だけを示す「あっち(あっち!タワー)」も切り口が明快でした。

山中 最初は座礁している船を持ち上げて、ある向きに置くということを彼らは考えました。ただ、それだと船を残すことの賛否の議論で引っ掛かってしまうし、船がないところは新しく船を作るのかということにもなる。そこで、そもそもやりたいことは何かということを突き詰めていくと、「あっちへ逃げましょう」ということが瞬間的に感じられるようにすることだった。そして、ウェブでも看板でもなく、巨大な矢印を非常にシンボリックな形で残すことを彼らは提案したわけです。

「あっち」――誰にでも瞬時に伝わる津波避難誘導。誘導塔はそれぞれ避難すべき方向を指している。危機的状況では携帯電話などのデバイスに頼れない。誰にでも瞬時に避難すべき方向が伝わる手段を考えた(資料提供:慶応義塾大学)
「あっち」――誰にでも瞬時に伝わる津波避難誘導。誘導塔はそれぞれ避難すべき方向を指している。危機的状況では携帯電話などのデバイスに頼れない。誰にでも瞬時に避難すべき方向が伝わる手段を考えた(資料提供:慶応義塾大学)

* 担当者は山中氏のほか、佐藤可士和環境情報学部特別招聘教授、筧康明環境情報学部准教授、村井純環境情報学部長・教授