言葉は悪いけどいわゆる落ちこぼれマンション、これを作らないためにはどうしていくか、それを今、県でも考えていることです。それにはマンションの基礎データをそろえることがなんと言っても大切ですね。
国の「みらいネット」の登録項目はかなりの数ですが、神奈川県で考えているのは項目数を絞って、いわばマンションの戸籍ともいうべき登録項目にして、マンションの規模、戸数、築年数、など基礎的な登録項目を中心に、理事会の運営、修繕履歴の主なものなど、少なくともこれだけは行政も、組合も把握しておかなければならないものにしようという考え方です。そのうえで、私たちのネットワークやマンション管理士会が共同で、管理が十分でないマンションについての何かいい方法を一緒に考えられないかと、こういう形でやっているわけです。
村井 それは貴重なお話ですね。だって、神管ネットというのが出来て、その真ん中に高尾さんがいらっしゃるからこそ、そうした実情がわかったわけですから……。もし、神管ネットができていなかったら、県内の各地で管理意識にそんな格差があるなんて、誰にもわからないままだったはずですよね。少なくとも、横浜と川崎が違い、川崎と横須賀がまた違うというようなことも、比較ができるからこそわかったことだと思います。そういう比較ができるステージとして、神管ネットという場所を苦労しながら作ってこられたと言えますよね。これは一種の地域間格差だと思いますが、そうした地域差が存在することの確認自体が貴重な情報だと思いますね。
今おっしゃったようなマンション管理についての地域間格差があることを考えれば、県や関係各市などの行政サイドに対して、マンション管理上の地域差があること、対応する方法論もまたそうした格差に対応して考えていくべきことを、どんどん情報発信していく必要が出てきますよね、たぶん東京都と神奈川県は違う、首都圏と近畿圏もまた違うということを含めて…。
ただそこで、当の管理組合サイドがそうした情報を発信する機能をまだ持っていないという、一番苦しくて重い問題が出てきます。これが、管理組合サイドにとっても大きな宿題になりますね。最終的に、これは、管理組合の問題意識のあり方ということになるんでしょうか、やっぱり……。
高尾 例えば、横須賀のネットワークということで考えてみますと、小規模マンションが多いものですから、30戸、50戸規模のものが、結構問題を抱えているだろうと思います。先日も100通ぐらい、いつ、どこで相談会をやりますからと案内書を出したんですが、そうしたら1件も返事が来ないんですね。もっとも、これは理事長の個人名がわかっているわけではありませんから、“何々マンション管理事務所気付 管理組合理事長様”宛てで出す以外、しょうがないんですけど。それでも少なくとも2件か3件ぐらいあるかなと期待していたんですが…。
村井 全然、反応がないんですか?
高尾 全然ない。そういう状況にあるんです。
村井 それは、わざわざ相談しなければ困るような問題がないっていうことなんですかねぇ…。
高尾 いや、そんなはずはないと思うんですけどね。問題意識を持たないんでしょうかね。
村井 考えてみると、管理組合そのものの組織的な空気と共通しているところがありますよね。全国、どこでも昔からそうなんですが、総会を開こうとしても、出てくる人のほうがごくわずかで、たいていの人は出てこない。要するに反応がないわけですね。なぜ反応がない空気が生まれるかというと、組織のメンバーであるという自覚が全然ないからです。そうした空気を象徴する現象が役員のなり手不足ですよね。そこに、あの日経の記事の問題がかなりリアリティーを持って浮かび上がってくる実情があるわけです。
(つづく)
高尾勝彦(たかお・かつひこ)氏
1938年香川県生まれ。1975年横須賀市の団地型マンションに入居。設立時の管理組合理事を1年半務める。その後1990年副理事長、1998~99年の2年間理事長を務め、この間に自主管理方式に移行する。その後も同団地の規約改正委員長や修繕委員を務める。2002年NPOよこすかマンション管理組合ネットワーク設立と同時に会長に就任。2005年4月からNPOかながわマンション管理組合ネットワーク会長に就任し、現在に至る。