Q: 当マンションは新耐震基準導入前の建築で築28年になります。89世帯、8階建て、RC造で、1回目の修繕は築14年目に行い、今回は2回目の大規模修繕を計画しています。
当マンションの屋上には通信事業者のアンテナ設備があります。10年前に設置したもので、修繕に当たっては撤去しなければ壁面も塗れず、またアンカーボルトで打ち付けた個所は内部の劣化状況も診断できません。
しかし多くの住民は、通信事業者からの賃料収入がなくなるので撤去については猛反対しています。長期的展望に立って建物を考えるという視点で、住民に撤去について納得してもらう方法はないでしょうか。
このままアンテナ設備を付けたままにしていると周囲の修繕ができず、将来的な損失につながることを説明したいのですが、その損失について金額で表す方法はないでしょうか。
他マンションの事例などもありましたらお教えください。
よろしくお願いします。
A: 通信事業者のアンテナ設置を最初から想定して建物が設計されているマンションは少ないはずです。
一般的に、マンションは構造計算上できる限り重心が下部に集まるように、また屋上は、雨・風・雪・太陽光の影響を効率よく防げる機能を保つことができればよいように設計されています。新たな荷重がかかることは基本的に想定されていません。
1978年6月12日に起きた宮城県沖地震の被害を受けて、1981年6月1日以降に確認申請を受けた建物から新耐震設計法が導入されました。
ご質問者のマンションが築28年ということは1980年の竣工になりますから、確かに旧耐震設計基準に基づいて構造設計されていることになります。耐震診断をしてみないとわかりませんが、少なくとも新耐震基準の建物よりも耐震性は劣ります。
大規模修繕工事を計画中とのことですが、それよりもまずは耐震診断を優先してもらいたいところです。
今後30年以内に70%の確率で起こる首都直下地震は、東京湾北部を震源としたマグニチュード7.3のプレート間地震になると想定されています。東京の山の手では震度6弱の揺れです。ところがこれは地表面の揺れであって、8階建てのマンションの上層階では震度7に揺れが増幅されます。屋上も当然、震度7の揺れに見舞われます。
新耐震基準の目標は大きな地震がきても建物が人命を守ることにあります。その基準を下回る旧耐震基準のマンションで、揺れが増幅される屋上に、設計当初に想定されていない荷重を載せるのはとんでもないことです。耐震性を低下させる要素を最も不利な場所に放置していること以上に、将来的な損失に該当するものはありません。
上層部の荷重を取り去ることが耐震性の向上に大きく寄与します。耐震改修の現場では耐震壁や柱の炭素繊維巻き、鉄骨ブレースや外付けフレームなどにより耐震性を高めるとともに上層階の減築が行われています。いかに建物の上層階の重量を軽くするかはすべての建物に共通した耐震上の大きなテーマなのです。
本来であれば、耐震診断をする以前に即刻アンテナを撤去してもらいたいぐらいですが、
マンションの管理運営は区分所有者の合意形成の下に行わなければなりません。まずは、アンテナ設置契約の内容とアンテナ設備がマンションに与える影響について、区分所有者や居住者に対する事業者から説明させる機会を設けてはいかがでしょうか。
そうした点についてあらためて事業者に確認する必要があります。
説明を受ける際には、屋上のアンテナと付随する様々な機器やケーブルなどの総重量、それが積載荷重上許容される範囲のものなのか、風圧や地震その他の振動および衝撃によって躯体や屋上防水層などを傷つける危険性はないかなど、総合的な安全性についてまず確認してください。
また、通信事業者との契約には「設置の期間」や「保守責任」、「アンテナ撤去時の原状回復責任」といった項目が盛り込まれているはずですから、日常の保守でマンションの躯体や屋上防水層などを傷めない方策をどのように取っているのか、大規模修繕工事時のアンテナ設備類をどのように取り扱うのか、アンテナ設備を撤去した場合にどのような方法で原状回復するのか、なども確認してください。
さらに、電磁波による健康被害が問題化したときの対応や賃料収入、万が一の事態が発生した場合の補償を含む契約内容も確認しておいたほうがよいでしょう。
以上を確認したうえで、通信事業者から提出されている仕様書や専門家による現地調査をもとに、アンテナ設置に伴うメリット・デメリットを検討してください。
ただし、ご質問にある「将来的な損失を金額で表す方法」については、アンテナを設置したままの状態にしておくと修繕できなくなる部位の被害や将来にわたる賃料を想定する必要があり、一般論としてのお答えは大変難しいものになります。
なお、「達人に聞け!」の欄では2008年1月26日付で「屋上にアンテナを設置したいと携帯電話事業者が申し入れてきた。どう対処すればよいか?」を掲載しています。そちらもご参照ください。