Q: 神奈川県にある築28年のマンションです。建築基準法上は3階建てで、山を造成した上に3階+3階+3階+3階と段々状に建てられていて、全体の平面形状はL型です。
1階部分に受水槽があり、ポンプ(2台:通常1台・非常時1台)を常設し、高台(同敷地内の山)に高置水槽があり、深夜電力を利用して高置水槽に揚水するシステムです。既存のポンプ室からの建物の最上部分の床高さまで、およそ28mあります。
この場合、直結増圧給水方式に切り替えが可能でしょうか。水圧など、現状の高置水槽からの給水で何ら問題はありませんが、直結増圧給水方式に替えることで、現状の配管に負荷が加わって問題になることはないのでしょうか。
A: 直結増圧給水方式とは、水道本管と各世帯の給水装置(水道設備)とを直結し、水道本管の圧力をポンプで増圧させることにより水を供給する給水方式です。
横浜市水道局の場合は、2005(平成17)年4月から口径75mm(それまでは50mmだった)の増圧ポンプを設置することで、ファミリータイプ200戸程度の15階建てマンションまで直結増圧給水ができるようになりました。当該地域の配水管水圧に余裕がある場合は、増圧ポンプの設置が猶予されることもあります。
3階建てであれば直結給水(配水管水圧のみでポンプなし)もできますが、ご質問のマンションは3階建てといってもそうはいかないようです。ポンプ室から最上階床までが28mということは11階建てに相当しますから、増圧ポンプは必須になるでしょう。
ただし、同じ神奈川県内でも水道事業者によって使用する配管(管材、口径)や地形を含めた建物環境などの基準が異なる場合があります。直結増圧給水方式への切り替えが可能か否かについては、管轄する水道事業者に直接問い合わせて、調査および確認を行う必要があります。
また、築28年ということは給水管が塩ビライニング鋼管であっても管端防食継ぎ手(88年規格制定)や異種金属接続継ぎ手(92年規格制定)などは使われていない時代なので、特に継ぎ手のネジ部分からの腐食が進んでいるはずです。
神奈川県企業庁水道局の管内では、過去にライニング更生工事が施工されている場合は、浸出性能確認にための水質試験を公的検査機関で行うか、浸出性能基準適合証明書を提出して確認するなど事前の手続きを要します。水道事業者の配水管と文字通り直結されるわけですから、安易に浸出するようなライニング塗料であってはなりません。これらの手続きについても水道事業者によって基準が異なるので注意が必要です。
築年数を考えれば直結増圧給水方式へのシステム変更に合わせて給水管を更新することが理想といえます。直結する際は、専有部分の給水管や水栓金具まで、水道事業者が基準としている材質や耐圧試験を満足しなければなりません。ですから、共用部分だけでなく専有部分の改修計画まで踏み込むことになります。住戸内の施工計画や費用負担の区分など、十分に時間をかけてコンセンサスを得る事項が山積しています。
ご心配の既存配管への負荷については力学的には問題ないのですが、むしろ既存の給水装置の構造や材質が基準に見合うか、経年劣化が所定の耐圧試験に耐え得るかが、直結増圧給水方式の採用を左右しそうです。
ちなみに、直結増圧給水方式のメリットとしては以下が挙げられます。
◆受水槽が不要となるため、定期的な清掃や保守管理の必要がなくなる
◆受水槽設置跡地を有効に活用できる
◆受水槽に水を貯めないので、安全で新鮮な水が直接供給できる
◆建物に設置した高置水槽を撤去した場合、設置階(屋上)の水槽荷重が減るので、構造体の負担が少なくなり、耐震上有利になる
また、直結増圧給水方式のデメリットとしては以下が挙げられます。
◆増圧ポンプの清掃・点検および維持管理費用が必要となる
◆停電時には上層階で断水が生じる
◆水道配水管工事のときは直ちに断水となる
◆大地震のときは水槽に水の蓄えがない