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利用策なき施設寄贈に「No」

─庁舎整備費用は約4億円にまで抑制されましたが、どのようにして実現されたのですか。

山中 市長就任後、私が庁舎の整備方針に疑問を持っていると発言したところ、様々な事業者から代替手段についての情報が私や担当部局に寄せられました。こうした情報や市民からの意見聴取などを経て、当初の対策で計画していた仮設庁舎を建設しなくても、既存の庁舎を使いながら改修できる手立てがありそうだということが分かってきたのです。

 そこで、公募型の設計施工プロポーザルという方式で発注することに決めました(図1)。民間からいろいろなアイデアを提示してもらえるのではないかと踏んだのです。実際に、工期も工費も当初想定より削減できた。ただ、設計と施工を一体で発注することを踏まえ、第三者の専門家の力を借りて内容を確認するようにしました。

図1 民間企業から知恵を募る
松阪市は庁舎の耐震改修を実施するために、実施設計と施工を一体にしたプロポーザル方式による発注を実施した(資料:松阪市)
松阪市は庁舎の耐震改修を実施するために、実施設計と施工を一体にしたプロポーザル方式による発注を実施した(資料:松阪市)

─投資を減らすだけは、街づくりを進めることが難しくなりませんか。

山中 地域の街づくりへの投資は、一定の要件を満たせば惜しまない方針です。その要件とは、街づくりにおける市民の知恵と汗。だから、単純なハード整備の要望などには厳しい姿勢で臨んでいます。例えば、アーケードの改修やさび取りを要望する声がありましたが、こうしたことに対する予算計上には反対してきました。期待しているのは、施設などを生かすソフトの工夫です。

 市役所の近くに長谷川邸という文化的価値がある建物があります(写真2)。市はこの施設について、寄贈の申し出を受けました。市の教育委員会はすぐにもらうべきだと主張しましたが、私はただだからといって、すぐにもらうようなことは慎むように言いました。歴史的価値がある施設は、もらって満足してしまいがち。でも、こうした施設には維持管理に金がかかる。次の世代に責任を持てる活用策がなければいけません。

写真2 活用策が決まってから寄贈を受ける
市庁舎本館のすぐ近くに建つ長谷川邸。文化的価値を持つ一方、維持管理には相応の費用を要する(写真:日経アーキテクチュア)
市庁舎本館のすぐ近くに建つ長谷川邸。文化的価値を持つ一方、維持管理には相応の費用を要する(写真:日経アーキテクチュア)

 文化、経営関係の人などを集めて活用のための審議会を設け、地域の人や観光関係者などを入れて市民に開かれたシンポジウムや意見聴取をやりました。施設を公開するだけでなく、松阪の名産である木綿製品を展示・販売したり、飲食できる場を設けたりする。そんな知恵を皆で出し合い、生かし方を整理した上で、施設をもらい受けることにしました。街づくりでは、皆で次の世代のことを考えて取り組むことが大切なのです。

山中 光茂(やまなか みつしげ)氏
松阪市長
山中 光茂(やまなか みつしげ)氏 1976年生まれ。1998年に慶応義塾大学法学部を、2003年に群馬大学医学部を、それぞれ卒業。ケニアでの医療活動や森本哲生衆院議員の秘書などを経て、07年に三重県議に。09年2月に松阪市長に就任(写真:車田 保)