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従来のがっしりとしたタワーとは違い、繊細な印象の東京スカイツリー。設計の中心になった日建設計の吉野繁氏は、途中まで別の案を推していたが、監修者の指摘で繊細さを追求した。(聞き手は宮沢 洋、島津 翔)

─平面が三角形で、上部に向かうにつれて丸くなるタワーの形は、どのように生まれたのですか。

 細長い敷地条件の中で、可能性のある形を限りなく検討しました。つくった模型は100個以上になります。結局、一番無駄がなく、余計なものをそぎ落とした案が、実現した形です。土木的構造物は、無駄をそぎ落としていくものなのだなと、つくづく感じました。

─敷地の条件で、東京タワーのような末広がりにできなかったということですか。

 そこに尽きます。敷地の南北幅が東京タワーの敷地の半分ぐらいの長さの場所に、倍程度の高さのタワーを建てているのですから。

途中までは「見返り美人」案

 敷地が細長いので、渦巻きのような平面形の一方向だけ足元を伸ばす案も考えました。着物の裾からタワーに入っていくイメージで、「見返り美人案」と呼んでいました(図2-1)。しかしこの案だと、裾を伸ばした部分に、エントランスをつくるための無駄な部材が生じてしまう。風も地震もどの方向から来るかわからないので、構造的にも無駄な部材が多くなってしまうのです。

図2-1 途中段階まで推していた「見返り美人案」
吉野氏が推していた「見返り美人案」。渦巻きのような平面形の一方向だけ足元を伸ばし、伸ばした部分からタワーに入る(資料:日建設計)
吉野氏が推していた「見返り美人案」。渦巻きのような平面形の一方向だけ足元を伸ばし、伸ばした部分からタワーに入る(資料:日建設計)

吉野氏が推していた「見返り美人案」。渦巻きのような平面形の一方向だけ足元を伸ばし、伸ばした部分からタワーに入る(資料:日建設計)

─「見返り美人案」のほかにはどのような案があったのですか。

 別のチームが考えたのが、上部の円から底部の三角形へと途中で一気に切り替わる案です(図2-2)。

図2-2 「構造切り替え案」も
上部の円から下部の三角形へと途中で一気に切り替わる案(資料:日建設計)
上部の円から下部の三角形へと途中で一気に切り替わる案(資料:日建設計)

 ほかに、亀井忠夫さん(日建設計常務執行役員)が考えたのが「らせん案」。これはとても美しいのですが、無駄な鋼材が多いということで見送られました。

 結局、東武鉄道に提出する段階では、「構造切り替え案」と「見返り美人案」と「最終案」(写真2-1)の3案に絞られた。構造切り替え案は技術的に難しそうなので、実現するのは後者の2案のどちらかかなと思っていました。

写真2-1 最終案に近い模型
監修者の澄川喜一氏に指摘されてデザインの方向性が明確に。「『細いからこそ美しい』という方向にシフトした」(吉野氏)(写真:日建設計)
監修者の澄川喜一氏に指摘されてデザインの方向性が明確に。「『細いからこそ美しい』という方向にシフトした」(吉野氏)(写真:日建設計)

─設計過程を振り返って、転換点になった時期はありますか。

 施主に3案をプレゼンテーションする前に、デザイン監修を務められた彫刻家の澄川喜一先生(東京芸術大学名誉教授)に3案を見てもらいました。先生が、「コンクリートの細いタワーはこれまでにも存在しているけれど、鉄骨で組んだものはなかなかない。だから美しいのではないでしょうか」とおっしゃった。実は、それまではずっと「見返り美人案」を考えていた。それがパチッと切れた瞬間でした。「細いから美しい」という方向にシフトしていったのです。

─最終案に決まった後、基本設計で吉野さんが特にこだわったのはどのあたりですか。

 地上450mにある第2展望台の天望回廊は、空中散歩をしているかのような感覚が楽しめるスロープにしました。

─スロープにしたからこその苦労もあったのでは。

 円柱ではなく円すい状のボリュームに、らせん状の回廊が付いているので、スロープの断面が徐々に変化していきます。サッシの割り付けもすべて違うので、設計は難しかったですね。

メンテナンスを意識した設計

 高所ならではの留意点もたくさんありました。まず、飛来物などでガラスが破損した場合、天望回廊や天望デッキの高さで外側からガラスを交換することは非常に難しい。大掛かりな足場が必要になります。

 そこで、基本設計の段階でガラスはすべて内側から交換することにしました。サッシの押し縁が内側にある珍しい方法を採用しています。

─天望回廊は、天望デッキに比べて1枚のガラスが小さいように見えます。高所ならではの制限があるのですか。

 天望デッキには、ガラスを運搬する機械を入れることができますが、天望回廊は勾配があるために機械が使えません。そのため、人力でガラスを運搬、設置しなければなりません。2~3人でガラスを運べるように、重くても1枚25kg程度になるように設計しました。

日建設計設計部門デザインパートナー 吉野 繁(よしの しげる)氏
吉野 繁(よしの しげる)氏 1961年三重県生まれ。早稲田大学理工学部建築学科卒業、同大学院理工学研究科建設工学専攻修了。86年日建設計入社。99年設計主管。2005年設計室長。09年設計部門デザインパートナー。東京スカイツリーの設計と並行して、渋谷ヒカリエの設計も担当した(写真:山田 愼二)