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 「『理解したつもり』と『理解していない』の間の往復運動を繰り返している」

 松原弘典氏は著書『未像の大国 日本の建築メディアにおける中国認識』の中でこう結論付けている。

 同書は、明治から現在に至る日本建築界における中国観の変遷を分析した研究書だ。2005年に中国に設計事務所を設立した松原氏が、1887(明治20)年以降の『建築雑誌』と『新建築』、『日経アーキテクチュア』に掲載された中国関連の記事を読破してまとめた。

 本書では、日本建築界の中国に対する理解やスタンスが、常に揺れ続けている様子が浮かび上がる。例えば、明治から昭和にかけて中国を旅して回った建築家の伊東忠太は、中国の建築を「珍奇」であると断じている。そうかと思うと第二次大戦後の日本建築界の論調は、貧しかった中国の建築界を否定せず、日本より積極的な文化財保護の動きなどを進んで賞賛した。

 中国は距離が近く、歴史的なつながりも強いため、「理解したつもりになれる」。しかし、「よく見れば厳然と違う人たちの集まりで、何より大きいがために全体を理解していない」。だから全体像を捉え切れない「未像」の国となる。

 しかし松原氏は「中国を全て理解するのは無理。未像で構わない」と言う。重要なのは、それまで抱いていた中国像を常に検証して、その時の中国像を捉え直すことだ。「例えば、『中国経済は人間関係で動く』といった固定概念を振り払う。そうすれば、今の中国の建築主と円滑にコミュニケーションできるはずだ」

松原 弘典(まつばら ひろのり)
松原 弘典(まつばら ひろのり) 慶応義塾大学総合政策学部准教授。1970年生まれ。97年東京大学大学院工学研究科修了。伊東豊雄建築設計事務所などを経て、05年北京松原弘典建築設計公司設立。『未像の大国』は、松原弘典著/鹿島出版会/2012年5月/4725円(写真:日経アーキテクチュア)