PR

日経アーキテクチュア「名作解読」でおなじみの山梨知彦氏(日建設計)も、坂氏と同様、木に強い関心を持っている。初対面となる2人に対談してもらった。坂氏の木の使い方や発想法に山梨氏が鋭く切り込んだ。

対談は「素材・技術」をテーマに坂氏の事務所で行った。本稿ではそのうち木に関わる部分だけを掲載した。3月4日発行予定の書籍「NA建築家シリーズ07 坂茂」では、対談の全内容を掲載している(写真:山田 愼二)
対談は「素材・技術」をテーマに坂氏の事務所で行った。本稿ではそのうち木に関わる部分だけを掲載した。3月4日発行予定の書籍「NA建築家シリーズ07 坂茂」では、対談の全内容を掲載している(写真:山田 愼二)

山梨 坂さんは最近、構造材として木をよく使っていらっしゃいますよね。ほかの材料のときには直線的な使い方が多いのに、木を使うとウェイビーな(波のような)ストラクチャーが多くなるのはなぜでしょうか。

 木はもともと大好きだったんですけれど、フライ・オットーさん(ドイツの構造家)とコラボレーションを始めてから、彼のIL研究所(軽量構造物研究所、写真3-1)を見たとき、ケーブルの上に野地板を敷いて断熱材を置き、防水材をふいているのが「もったいない」と思ったのです。

写真3-1 木のシェルに着想
フライ・オットー氏のIL研究所。改修で木を張った(写真:山梨 知彦)
フライ・オットー氏のIL研究所。改修で木を張った(写真:山梨 知彦)

 ケーブルの構造なのに、上に木のシェルができてしまっている。ケーブルがなくても木のシェルで持つだろうと思った。あの建物はもともとモントリオール万博ドイツ館のパビリオンのモックアップで、研究所として使うために室内環境を整えなければならず、結果的にそうなったわけですが。

山梨 これが軽量構造物の大本山の建物か、と普通なら感心するところで、「もったいない」と思うのが坂さんらしいですね(笑)。

 一般的にスパンを飛ばすときは木材の断面を垂直に立てて使うけれど、屋根に面をつくる限り、木は水平に寝かせて曲げて使ったほうがいいのではないか、と思い始めたのはそれを見た頃からです。

 ポンピドー・センター・メス(写真3-2)では、中国の竹の帽子が発想の原点になりました。竹を編んだ曲面の上に防水材として油紙を貼り、下に断熱材として乾燥した葉っぱを入れている。それを見たときに建築の構成と全く変わらないことに驚き、こういう構造をつくりたいと思ったんです。ものを引っ張りで使うと当然、馬の鞍のように双曲になりますし、剛性を出すためには曲面にせざるを得ません。

写真3-2 竹の帽子が発想の原点
ポンピドー・センター・メス(2010年)の夕景。鉄骨のタワーから広がる3次元の木造架構により膜屋根を支持する。中国の竹の帽子にインスピレーションを得た(写真:武藤 聖一)
ポンピドー・センター・メス(2010年)の夕景。鉄骨のタワーから広がる3次元の木造架構により膜屋根を支持する。中国の竹の帽子にインスピレーションを得た(写真:武藤 聖一)

山梨 木を曲げて使うことで剛性が生まれるという考え方ですね。テントの仕組みに通じます。細いパイプに曲げを加えた瞬間、膜との立体剛性が生まれて堅固になる。

 実はポンピドー・センター・メスを見て、それまでの坂さんの建築とはイメージが違う、冗舌な形だなと思っていたんです。でも、思想の根っこは一緒で、構造的な合理性を求めた結果、生まれた形だったということが今のお話で分かりました。