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条例の確認も必須

 裁判の主な争点は、「設計者が、掘削前の土地の地表面の高さを誤って認識していたか」、「設計者に債務不履行や過失があるか」の2点だった。

 裁判所は、設計図書の履歴や原告と被告の交渉過程を確認。設計者の算定した掘削土量467.1m3に対して、実際の掘削土量が1000m3を超えた事実などから、被告が地表面の高さを実際より2m程度低いものと誤って設計したと認めた。

 そのうえで、以下の理由から設計者の債務不履行と不法行為を認定した。

 傾斜地に建設する建物を設計する場合、仕様の決定や法令適合性の検討をするうえで、傾斜の程度など土地の現況を的確に把握することは必要不可欠だ。現況把握に誤りがあれば、建物やその周辺状況などについて、設計における想定と実際の建築との間に食い違いが生じたり、適法に建物を建築できなくなったりする恐れがある。土地の現況を的確に把握することは設計者の注意義務に属している。その誤りは、やむを得ない特段の事情がない限りは注意義務違反に当たる─。

 被告は、「原告から交付された測量図に基づいて土地の高低差を把握した」と主張した。しかし裁判所は、その測量図には斜面の上端付近を中心に、数カ所の高さだけしか記載されていなかった点を指摘。この土地の形状や勾配を推定する資料として適切ではないと判断している。

 敷地条件を正確に把握することは、設計者にとって基本中の基本だ。仮に測量図があっても、現況の確認を怠ってはいけない。

 自治体の条例を確認することも肝要だ。このケースでも裁判所は、崖の高さを誤って設計した結果として、愛知県の建築基準条例に適合させられない事態が生じることから、契約目的(適法な建築物の完成)の達成は不可能と判断。設計者の法的責任を認めている。

 同条例は、建築基準法のなかで自治体に制定を委ねている委任条例だ。これは、法律で定めていない制限を行う、自治体独自の自主条例と異なり、建築確認の対象法令となる。条例に違反していれば違反建築物となり、是正命令の対象ともなる。設計に際しては条例レベルの規定についても、法規と同等の注意義務をもって検討する必要がある。