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21世紀型都市建築の原型

 傾いた鋼管で構成されるチューブは、構造、設備、採光、垂直動線が統合されたものでありながら、平坦なスラブに変化をもたらす穴となり、上下間のアクティビティーを可視化する。一方、素っ気なく見える水平スラブも、実際には力をチューブに伝えるために、力の流れに従った非常に複雑なつくりとなっている(図3、写真2)。

図3 複雑なスラブのリブ
スラブ内のリブを示した図(5階伏図)。スラブの力をチューブへと伝えるため、力の流れに従った複雑なつくりがなされていることが分かる(資料:伊東豊雄建築設計事務所)
スラブ内のリブを示した図(5階伏図)。スラブの力をチューブへと伝えるため、力の流れに従った複雑なつくりがなされていることが分かる(資料:伊東豊雄建築設計事務所)
写真2 大量の鉄と複雑な工作
施工風景。初期案の揺れ動く海藻のようなチューブと極薄のスラブは、鋼製のパイプと鋼製の組み床によって実現された。初期の想定とは異なり、物質感と存在感のあるシステムへと置き換わった(写真:坂口 裕康)
施工風景。初期案の揺れ動く海藻のようなチューブと極薄のスラブは、鋼製のパイプと鋼製の組み床によって実現された。初期の想定とは異なり、物質感と存在感のあるシステムへと置き換わった(写真:坂口 裕康)

 その実現に要した大量の鉄と複雑な工作は、現代における手仕事的なるものとして賞賛されたり、逆に、批判の的となったりもした。しかし私はここに、今日のコンピュテーショナルデザインやデジタルファブリケーションの方向性を垣間見る。

 これらは当時、手仕事により実現されたが、現在であればコンピュテーショナルデザインとデジタルファブリケーションの統合によって、当時よりも数段洗練された方法で生産が可能であろう。伊東氏自身、この建築の解説文のなかで、設計という行為が「計画からシミュレーション」へと近づくことを述べているが、これは今日の方向性を直感的に予感していたものといえる。

 そうして生まれた非均質な空間は、人間のアクティビティーを誘発する新しい場所性を創造した。間仕切りが多用された現在の状況では読み取りにくいが、1階のパブリック空間ではその可能性を体験できる(写真3)。

写真3 「非均質」なユニバーサル空間
1階内部(開館当時)。ドミノシステムの「均質化」されたユニバーサル空間に対し、「非均質」なユニバーサル空間を創出した(写真:三島 叡)
1階内部(開館当時)。ドミノシステムの「均質化」されたユニバーサル空間に対し、「非均質」なユニバーサル空間を創出した(写真:三島 叡)

 この建物の本質は、ドミノシステムが切り開いた大量生産的で均質なシステムと美学を乗り越える新たなシステムと場所性の提示にある。そして今、情報通信技術やデジタルファブリケーションの一般化により、ここで示されたビジョンは、メディアが重要な位置を占める21世紀型の都市建築の原型となり得る可能性を持つに至った。

 名建築の条件の1つは、次世代をけん引する新しい原型の創造にあり、せんだいメディアテークは間違いなくその役割を担っているといえるだろう。