多くの町おこしが継続性に課題を抱えるなか、瀬戸内海の直島(香川県直島町)は、四半世紀に及ぶ取り組みで年間43万人の観光客が訪れるまでになった。町おこしをけん引する福武總一郎氏に成功の要因を聞いた。
─2回目となる「瀬戸内国際芸術祭」が開幕しました(図1)。
直島から始まったこの取り組みは、世界的に「直島メソッド」と呼ばれています。現代美術によって、過疎地や傷付いた地域を、地域の人と一緒に再生する。いわゆるハコモノを大量につくって、それを目玉とした観光地にするのではない。地域の人々の笑顔を取り戻すために、アートや建築が果たす役割を明確に規定した手法だということです。
─つまり、アートや建築は手段であって目的ではないと。
そうです。3年に1度開催する瀬戸内国際芸術祭では、島の人々やアーティスト、建築家が開催日を目指して一斉に作品や建物を整備する(写真1)。イベントの終了後は、良い作品が確実に残っていく。
こんな地域づくりは、世界にもなかなか例がないと思います。スペイン・ビルバオのグッゲンハイム美術館は施設で地域を再生しましたが、あれは街での話です。過疎で傷付いた場所ではありません。
アートイベントとしてはイタリアのベネチア・ビエンナーレなどが著名ですが、基本的に作品はその地に残らない。一般のアートイベントは地域の人のためではなく、アート関係者のためにやっていることなのです。それが直島や瀬戸内での活動との明確な違いです。
─直島との関わりは25年以上になりますね(図2)。
父の急逝によって40歳で福武書店(現・ベネッセホールディングス)を継ぎ、東京から本社のある岡山に帰りました。瀬戸内の美しい自然に触れているうちに、東京一極集中に対する疑問が湧き上がってきたのです。
政治も経済も文化も東京に集中しすぎて、このままでは日本が駄目になる。「人間」や「自然」というキーワードが欠落した場所で大きな意思決定がなされている状況では、人生を豊かにするような発想が出てくるわけがない。経済中心に考えることしかできなくなっているのです。本来は、人々が豊かな生活を送るために経済活動があるべきです。経済は文化の下僕なのです。