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内装制限との格闘

木を現しで使う場合、構造の防耐火だけでなく、仕上げの「内装制限」も影響してくる。通常は不燃処理した木を用いることが多いが、ここでは、避難安全検証によって無処理の木材を採用した。

 大阪木材仲買会館の壁や天井には、不燃処理をしていない木材が多く使われている。通常、オフィスビルでは使えない内装材だ。

 建築基準法は建物の用途や規模に応じて「内装制限」を定めている。大阪木材仲買会館は、3階以上で延べ面積が500m2を超える事務所利用の耐火建築物なので、内装制限の適用を受ける。火災発生時の安全を確保するため、壁と天井には「準不燃材料」などの燃えにくい材料を使わなければならない。

 しかしこの建物では、できるだけ木の香る無処理のムク材を使いたいという建築主の要望があり、竹中工務店は独自に検証を実施して採用にこぎつけた。検証を担当した同社技術研究所構造部防火グループの出口嘉一主任研究員は、「内装に無処理の木材を使う前提として、まずは建物の避難経路を明快にした」と話す。

 当初の案では、建物内にある吹き抜けの階段室と、バルコニー東側の外階段とで2方向避難を確保していた。それに対して、出口主任研究員は、新たにバルコニー西側にも外階段を設け、建物内の階段は避難に使わないよう提案した。その理由について、「この建物はどの部屋もバルコニーに面している。火災が起きたら、とにかくバルコニーにさえ出れば左右(東西)どちらにも安全に逃げられるようにした」と説明する(写真5、図2)。

写真5 東西に避難階段を設置
全室がバルコニーに面する。避難に使うため、軒天は不燃木材とした。左奥に西側避難階段が見える(写真:生田 将人)
全室がバルコニーに面する。避難に使うため、軒天は不燃木材とした。左奥に西側避難階段が見える(写真:生田 将人)

図2 木造を下支えするバルコニー
3階開口部まわり断面詳細図  奥行き2mの軒は、雨や日差しから木を守る意味もある。各階のバルコニーは、脚立を立てるだけで木部のメンテナンスができる。バルコニーの軒天は不燃処理したヒノキだが、屋内(3階)の天井ヒノキは不燃処理を施していない
3階開口部まわり断面詳細図  奥行き2mの軒は、雨や日差しから木を守る意味もある。各階のバルコニーは、脚立を立てるだけで木部のメンテナンスができる。バルコニーの軒天は不燃処理したヒノキだが、屋内(3階)の天井ヒノキは不燃処理を施していない

大会議室の壁は2回のNG

 そのうえで木を使うすべての内装について、壁・天井の実物大の試験体をつくり、所定の火炎を当てる「火炎伝播実験」を実施した。特に苦労した部位の一つが、デザインにこだわった3階大会議室の壁だ。集成材の部材であるギザギザの小口(フィンガージョイント)を目透かしで壁一面に張るデザインを考えた。しかし、火炎伝播実験を実施したところ、2分ほどで火が燃え広がってしまった(写真6)。

写真6 試験体3を採用
3階大会議室の壁の仕上げを検証した火炎伝播実験の経緯。すべて試験開始から165秒後のもの。表面に凹凸のある「試験体1」と「試験体2」は2分ほどで燃え始め、黒煙が上がった。グラスウールボードなどを挟み、凹凸をなくした「試験体3」は着火しなかった(写真:実験中は竹中工務店、下は生田 将人))
3階大会議室の壁の仕上げを検証した火炎伝播実験の経緯。すべて試験開始から165秒後のもの。表面に凹凸のある「試験体1」と「試験体2」は2分ほどで燃え始め、黒煙が上がった。グラスウールボードなどを挟み、凹凸をなくした「試験体3」は着火しなかった(写真:実験中は竹中工務店、下は生田 将人))

 目透かしの間隔を広くした改良案も同様の結果となり、壁面に凹凸があると燃えやすいことが分かった。そこで、目透かし部分にスチールプレートとグラスウールボードを入れ、凹凸のない面にしたところ、全く燃えなかった。この結果に基づき、最終の設計案をまとめ、念のためそのモデルでも火炎伝播実験を実施して安全を確認した。

 一連の実験により、内装に使った木材の大半を無処理のものにできた。唯一、上階の避難安全性を考慮して、2階事務室の天井だけは準不燃材とした。

 今回の検証では「避難安全検証法」のルートCを利用している(図3)。実験方法の考案から結果の検証まで独自に実施するもので、最終的には国土交通大臣の認定が必要だ。避難安全検証のなかで最もハードルが高いが、「今回の場合、ほかに選択肢はなかった。避難安全検証法ルートCを用いて、無処理木材の火炎伝播実験をした前例はおそらくない」(出口主任研究員)という。

図3 ハードルの高いルートCで実現