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PC構造が塩害対策にも

 この建物は、耐震壁付きラーメン構造で、低層棟の片持ち部分ではPC構造を採用した。

 構造設計を担当したアラップの与那嶺仁志アソシエイトは「海に面した敷地なので、塩害を防ぎたい。PC構造ならコンクリートのひび割れを抑制でき、鉄筋の腐食を防げる。構造壁梁に設ける多数の開口部に応力集中も起きない」と、PC構造の選択理由について話す。

 山側から崖方向に貫く厚さ470mmの3枚の壁梁にPC鋼線を挿入して緊張をかけた。PC構造では一般に、壁の最上部に2本のPC鋼線を直線状に入れる。これに加えて片持ち部分に逆V字状に6本の鋼線を入れている(図1)。さらに、壁梁に直交する南側壁面にもPC鋼線をハの字状に入れた。片持ちの付け根部分には、太さ3.6~4.2mの深礎杭3本を深さ約10mまで打ち込んでいる。

図1 逆V字やハの字の鋼線も
すべての壁をメッシュ状に分解したダイヤグラム。赤い線が壁梁に入れたPC鋼線を示す。オレンジ色で示した南面の壁にも緑色で示すようにハの字状にPC鋼線を入れている(資料:アラップ)
すべての壁をメッシュ状に分解したダイヤグラム。赤い線が壁梁に入れたPC鋼線を示す。オレンジ色で示した南面の壁にも緑色で示すようにハの字状にPC鋼線を入れている(資料:アラップ)

 施工に際しても、急傾斜地であることに加え、道路の狭さ、仮設物への制限など厳しい条件が重なっていた。施工を担当した清水建設広島支店の井上昇工事長は「敷地内では重機がほとんど使えなかった。その中でこの建築を実現させる施工方法を一つひとつ模索していった」と当時を振り返る。

 特に、片持ち部分のコンクリート打設が困難だった。仮設の支柱を擁壁上に設置できないので、工事中に躯体を支える仮設構台も一部を2.5~4.5mほど片持ちにせざるを得なかった。約600tの荷重を支えるため、構造解析をもとに約30本の支柱を配置して支持地盤まで打ち込み、H形鋼を渡して構台をつくった(写真1)。

写真1 仮支柱にジャッキ
片持ち部軒下空間の仮設構台解体の様子。支柱にかませたジャッキを外してできた隙間を使ってH形鋼を引き出す(写真:MOUNT FUJI ARCHITECTS STUDIO)
片持ち部軒下空間の仮設構台解体の様子。支柱にかませたジャッキを外してできた隙間を使ってH形鋼を引き出す(写真:MOUNT FUJI ARCHITECTS STUDIO)

 構台の解体方法も工夫した。すべての支柱の上にあらかじめジャッキを取り付け、作業が完了したところでジャッキダウンして、H形鋼を引き出せるようにした。