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鑑定評価に対する信頼が揺らいでいる

2008/06/30

 「また鑑定か」と思った人も多いだろう。6月17日、プロスペクト・レジデンシャル投資法人の運用会社に行政処分を下すよう、証券取引監視等委員会が金融庁などに勧告した。鑑定を取得する際の手続きや手法に問題があったからだ。これまでREIT運用会社に下された行政処分でも、鑑定評価の取得経緯を問題視したケースが多い。

 監視等委員会の報告を読む限り、今回のケースはこれまでに比べて悪質だと言える。鑑定会社に働きかけて、「スポンサー企業である売り主の希望価格」に評価額を合わせようとしていたのだから。監視等委員会も、「利益相反管理態勢が著しく不十分」だと厳しく指摘している。不正な働きかけをした時期は2007年3月と10月。REITへの行政処分が相次ぎ、多くの投資法人が利益相反に対する取り組みを強化したころだ。そんな時期に、投資家ではなくスポンサーの利益にばかり目が向いていたとしたら、コンプライアンス意識が著しく低いと言われても仕方がないだろう。

 昨年、不動産鑑定評価基準が改正され、投資市場で鑑定評価が信頼を取り戻しつつあるように感じていただけに残念でならない。今回の事件は別としても、取得価格と鑑定評価額がかい離することはよくある。鑑定会社と市場環境の見方が違えば価格も違ってくる。不動産価格が急激に動いている時には、鑑定評価が時価になかなか追いつかないという側面もある。このコラムでも書いたことがあるが、そもそも鑑定評価はあくまで参考価格にすぎない。鑑定評価を超えた価格で取得する場合には、それを説明できればいい。

 2007年3月に日本ビルファンド投資法人(NBF)が中野坂上サンブライトツインを取得したとき、312億円という取得価格は鑑定評価額を95億円も上回っていた。投資法人は開示資料のなかで、ビルの賃料水準が低く、今後、収益が増加する余地があることを説明している。取得を発表した翌日、NBFの投資口価格は下落しなかった。鑑定評価額を超える価格で取得しても、投資家が納得できる事情があり、きちんと説明できれば投資家も受け入れる。鑑定評価を超えた理由が利益相反行為だとすれば、まともに説明もできないはずだから、投資家も強い疑念を抱くことになる。

 今回のような事件が続けば、鑑定評価書そのものの開示をさらに充実するように投資家が求めてくるかもしれない。不動産鑑定評価基準の改正によって、証券化不動産の収益価格を求める際には、DCF法を適用することになった。DCF法とは、一定期間のキャッシュフローを現在価値に戻して価格を算出する手法だ。この算定においては、建物の収益予測など、鑑定士が用いた資料やデータの根拠を示す必要がある。こうした鑑定に使った根拠データ自体を、ある程度明らかにするように求められるのではないだろうか。鑑定評価制度が信頼できないとなれば、算定のプロセスから検証するしか、取引価格の妥当性を判断できないからだ。

徳永 太郎日経不動産マーケット情報

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