【連載 不動産マーケット再浮上の条件:第3回】 東京の都市の力をばねに成長を

2009/07/23

日経不動産マーケット情報

三菱UFJ信託銀行不動産コンサルティング部は2009年7月、書籍「不動産マーケット再浮上の条件」(日経BP社)を出版した。不動産マーケットの低迷が続くなか、マーケットが復活するにはいったい何が必要なのか。書籍ではJ-REITやプライベート・ファンド、マンションなどのマーケットがどのように行き詰っていったかを解説したうえで、「再浮上」するためのヒントを探っている。書籍のなかから、早稲田大学川口有一郎教授へのインタビュー部分を抜粋して寄稿いただいた。3回にわたって連載する。

インタビュー 川口有一郎(早稲田大学大学院ファイナンス研究科教授)
聞き手 野田 誠(三菱UFJ信託銀行不動産コンサルティング部 専門部長)

──日本の不動産マーケットは、バブルのころはおろか、数年前の活況の状態にも戻らないとお考えでしょうか。
川口
:戻らないといえば戻らないのですが、私の言う「戻らない」とは、マーケットの状態が可逆的でなく不可逆的だという意味です。元の場所には戻りませんが、違う「常態(ノーマル)」に向かうということなのです。
 今回の事態の進展を見ていると、もはや過去に行き過ぎていたマーケットが調整によって戻ることはないのだと思います。世界経済を一括りにしてしまえば調整と表現しても許されるかもしれませんが、国別で見れば、構造変化なのです。構造変化のなかで、各国はどう立ち振る舞うのか。日本はどうするのか。長期下落トレンドに入っている日本も、再浮上のチャンスはあります。
 実際に、英国も米国も過去にいったんは衰退の危機にひんするという経済状況まで陥りながら、その後、金融力と不動産力を駆使して、この30年間、経済回復を果たしたではありませんか。ドイツやフランスの社会民主主義的な立場に立つ人々はこれを全否定しますが、それは間違いです。EUの統合において、経済的な勝者になったのは、ベネルクス3国という小国です。彼らはEUのなかでいち早く市場機能を中心にした経済システムを導入しました。今後、中国を中心としたアジア・太平洋地域の経済統合という流れは不可避な構造変化をもたらします。このなかで、新しい日本経済を構築するには、今回の問題を反省しつつも、日本独自の金融力と不動産力を駆使して、持続可能な新しい経済成長を志向するのが望ましいと考えます。

──具体的には日本ではどのような施策が考えられるでしょうか。特に、不動産の資産価値の下落を止めて向上に転じさせるためにはどうすべきか、という観点から教えてください。
川口
:もちろん、日本の不動産にはポジティブに評価できる面もあります。実は、日本のなかでも東京は、海外からは「気候変動配慮型コンパクトシティ」として非常に評価が高いのです。オフィスや商業施設、住宅が高度に集積している割には、極端な過密感もなく街は清潔で空気もきれいです。公共交通機関などのインフラ一般の整備状況が際立って良く、生活や移動に不自由しません。気候的にも適度に恵まれ、何より水道水に不自由しないのが良い。その街のなかで、今でも再開発が次々に行われ、省エネルギーで先進的なデザインのビルが次々に生まれているのです。
 ドバイや北京でも近未来的な街づくりが行われているという意見があるでしょうが、これらの都市は、砂漠あるいは砂漠化が進む大地の上での街づくりなので、環境に大きな負荷を与えなければ街が成立しません。効率性、快適性、安全性、あらゆる観点から考えても東京は国際的な競争力が高いのです。あえて弱点があるとすれば、英語がビジネスの標準語でないことぐらいでしょうか。

──東京の都市の力をばねにして、成長していくのですね。
川口
:そうです。国際都市としての魅力を高めて、お金や人を呼び込むのです。例えば、いま気候変動問題が叫ばれていますが、東京は、すでに十分なインフラと技術力があるわけですから、あと少しの追加投資で、グリーンビルという気候変動配慮型不動産の市場を作ることができるのです。グローバル投資家にとっては大きな魅力ではないでしょうか。

──しかし、環境に良いからといって新しい建物を建てると、供給過剰になるという問題がありますよね。
川口
:それについては、ストックを変えるという発想でいけば良いと思います。古い建物を壊して新しいものにするスクラップ&ビルドです。ある審議会の部会でも提案しているのですが、CO2削減、低炭素社会に向けた「質の転換」です。あるところで、「このビルは使える、使えない」と線引きをしてストックを減らすのです。
 住宅の問題も、質の追求とスクラップ&ビルドを追求してこそ解決するのです。今のままの住宅供給を続けていては、ますます供給過剰になって資産価値も下がります。これからは「いかに壊すか」がポイントになると思います。

──「地上デジタル化するからTVを買い替えよ」と同じことを不動産に行うということでしょうか。
川口
:その通りですね。商業用不動産は特にそうで、「欠陥品はそのままどうぞ。でも使えなくなりますよ」というふうにするのです。「質の列島改造」は今後の内需拡大の大黒柱になる可能性があります。

この連載は、新刊書籍「不動産マーケット再浮上の条件」(川口有一郎、三菱UFJ信託銀行不動産コンサルティング部著)のなかから、著者の了解を得て抜粋または一部を編集したものです。書籍に関する情報は、下記のサイトをご覧ください。

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