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不動産投資ビジネスの新潮流(2)この10年で市場が学んだこと

2012/01/16

不動産金融を取り巻く環境が大きく変化するなかで、どのように市場を読み、戦略を練って、利益につなげていけばよいか――。日経不動産マーケット情報はこのほど「基礎から学ぶ不動産投資ビジネス 第3版」(田辺信之著)を発刊した。不動産投資に必要な基本的ノウハウを、実務に即して解説している。全面改訂した書籍のなかから、内容の一部を紹介する。

 1990年代後半から2009年春頃までの第1ステージが、日本の不動産投資ビジネスの成長過程において、どのような意味を持つものであったか、そこで習得したものは何であったかを整理しておくことにします。

 総括的には第1ステージは、不動産投資ビジネスを学びながら、市場基盤を確立する時期だったといえます。日本では土地神話の崩壊後、不動産が生み出す収益力によってその価値が評価されるようになり、そこで初めて欧米流の不動産投資ビジネスが成長する土壌が形成されました。そうしたなかで、欧米が少なくとも20年から30年は先行していた不動産投資ビジネスを、日本はわずか10年強の間に猛烈なスピードで学び、かつ実践してきたのです。この過程で日本は、数多くの知識、経験、ノウハウを習得しました。そのすべてを列挙することはできませんが、習得したいくつかのポイントを例示することとします。

 一つ目は、不動産投資ビジネスの基本的な考え方や実践的な知識、ノウハウです。不動産証券化の初期段階では、関連プレーヤーが証券化関連の契約書を一言一句、手作業で作り上げていきました。エンジニアリングレポート(建物調査報告書)も同様です。不動産の評価でも、不動産の生み出す収益が重視されるようになりました。エクイティ(資本)、デット(借入金などの債務)、レバレッジ(借入金を活用して自己資金の投資利回りを高めること)、出口戦略(購入した不動産の売却時の戦略)といった今では当たり前になった用語も、普及したのは90年代後半からです。こうした実態を踏まえると、わずか10年強の間に日本の不動産投資市場が40兆円を超える市場規模(証券化されている不動産の金額)にまで育ったことは、むしろ驚異的であるとすらいえるでしょう。

 二つ目は、不動産サイクル(不動産市況の周期的な動き)です。90年代後半のバブル崩壊後のディストレス市場の時期(不良債権や資産が処分価格で供給されていた時期)から2000年代前半の市況回復期、2006年から2007年にかけての市況のピーク、そして金融危機による市況の下降期と、日本は第1ステージでサイクルの一周期を経験しました。日本にも昔から15年前後の不動産サイクルはありますが、不動産投資市場が発展してからのサイクルの経験はこのときが初めてのものでした。それぞれの局面における不動産投資戦略は異なりますし、企業として強化すべき機能、スキルなどにも違いがありますので、サイクルが一巡するのを経験できたことは、日本市場にとって貴重な財産になったといえるでしょう。

 三つ目は、リスクマネジメントです。これは日本だけでなく、世界が学んだことでもあります。市場の下降期において何が問題となるのか。リファイナンス(借入金の借り換え)への対応、ファンドの経営破綻後の処理などを体験したことは、不動産投資のリスクマネジメントを大きく進歩させるものとなりました。例えば、金融危機時の企業やファンドの主な破綻要因は、利益を上げていたか否かというよりも、資金繰り逼迫時の備えの問題であったことが改めて浮き彫りになりました。このため金融危機以降は、企業やファンドが借入金の削減に努めるとともに、借入期間の長期化や返済期日を分散することによって資金繰りの安定化を図ろうとしました。また、J-REIT(不動産投資信託)を中心に、業界の再編成(ファンド同士の合併、スポンサーの交代など)が進み、それぞれの企業やファンドの財務基盤が強化され、市場のセーフティーネット(安全網)も構築されました。

 四つ目は、グローバルに事業を展開する投資銀行やファンドなどの投資スタンスやノウハウ、欧米を中心とする機関投資家の投資に対する考え方です。もちろん、金融市場では昔からこうしたプレーヤーとグローバルに取引を行っていましたが、海外の投資家が日本国内の不動産に本格的に投資してくることによって、より多くの関係者が実践的な情報、ノウハウを習得することができました。逆に、日本の制度や考え方との違いも明らかになってきました。

 五つ目は、コンプライアンス(法令等遵守)の重要性です。既に説明したように不動産投資ビジネスには数多くの参加者がいるため、関係者間の利益が相反する事態に陥ることもあります。そのようなときに、投資家の利益を不当に害してでも自らの利益を優先しようとすると、市場の信頼を傷つけたり、大きな混乱をもたらしたりすることにつながりかねません。サブプライムローン問題の根本には、「これくらいならいいだろう」という関係者の認識があったように思います。

基礎から学ぶ不動産投資ビジネス 第3版

基礎から学ぶ不動産投資ビジネス 第3版

定価:2,100円(税込)
田辺信之 著/日経不動産マーケット情報 編
A5判、264頁
2011年12月19日発行

本書を読むと、こんな疑問に対する答えが見つかります・・・・・
・投資判断の指標にはどんなものがあるか
・インカムゲイン、キャピタルゲインとは何か
・賃貸オフィスビル市場・賃貸住宅市場をどう見るか
・グローバル不動産投資市場を知るには
・デューデリジェンスとは何か
・エンジニアリングレポートとは何か


――第3回に続く――

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