日経不動産マーケット情報トップニュース > 記事(前のページ)

【視点】オルタナ投資に目覚めるGPIF、年金108兆円の行方

2012/12/12

 約108兆円の公的年金資産を運用する年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)は、不動産やインフラ、プライベートエクイティなどのオルタナティブ投資の検討に入る。11月29日には、調査研究を担当する企業4社を選定。提出した報告書を材料として、2013年4月から運用委員会の場で議論する見通しだ。

 GPIFは厚生労働省の外郭団体。国民年金と厚生年金保険の運用方針を決定し、信託銀行や投資顧問会社に委託する役割を担っている。その運用資産は政府系の年金基金として世界最大だが、これまでにオルタナティブ投資の実績はない。

 これまでにも、GPIFのオルタナティブ投資進出がメディアの話題に上ったことはあるが、その実は大抵の場合、外郭団体での調査レポート発行といったレベルにとどまっていた。この先、政治状況による曲折が予想されるとはいえ、今回公式に検討の俎上(そじょう)に上ったことは、一歩前進と捉えて良さそうだ。

 今回の調査研究に関する公募は、2012年8月に告示された。投資開始の是非やクリアすべき条件、リスク管理手法、海外公的年金との共同投資の方法などをレポートにして報告する内容だ。9月末の締め切りまでに応募したのはシンクタンクや年金コンサルティング会社など。英PERE誌は関係者の話として13者が応募したと伝えている。

 結果として残ったのは、渥美坂井法律事務所・外国法共同事業(本社:千代田区)、太陽生命・大同生命系のT&Dアセットマネジメント(本社:港区)。加えて、国内系でプライベートエクイティ分野の投資助言やファンド・オブ・ファンズ運用を手がけるブライトラストPEジャパン(本社:千代田区)と、同業のスイス系企業であるキャピタル・ダイナミクス(本社:千代田区)の合計4社だ。

“巨鯨”の動きに海外も注目

 欧米の大手年金基金の間では金融危機後、他の金融資産との相関性が少ないオルタナティブ投資に顕著な注目が集まっている。大口投資家としては米カリフォルニア州公務員退職金年金基金(CalPERS)やカナダ年金プラン投資委員会(CPPIB)などの例が知られる。不動産分野ではこれら欧米勢に加えて、韓国国民年金公団(NPS)やマレーシアPNBなどアジアの公的年金も投資を急拡大しており、ロンドンやニューヨーク、シドニーなどのランドマーク物件を買い集める動きがめだつ。NPSは資産の10%を不動産を含むオルタナティブ投資に割り当てている。

 他方、GPIFの資産配分は債券(特に日本国債)と株式に偏り、不動産はおろかオルタナティブ投資を一切してこなかった。2011年度の収益率は2.32%で、四半期ベースではマイナスに落ち込むこともしばしば。年金財政の悪化が政治的なテーマとなるなかで、GPIFを取り巻くプレッシャーは強まるばかりだ。内閣官房国家戦略室は、2012年7月に発表した「日本再生戦略」のなかで、「GPIFの資金をはじめとする公的、準公的な資金について、運用立国としての地位確立といった観点も含め、成長分野への活用を検討する」とうたう。

 一口にオルタナティブといってもその内容は多様だが、一般には不動産がその代表格の一つであることに異論はないだろう。GPIFの運用資産は巨大なことから、仮にその1%を不動産投資に振り向けただけでも、J-REITの合計時価総額の3割超に匹敵する規模になる。世界最大の機関投資家の動きはロイター、ブルームバーグをはじめとする海外メディアの注目の的となっており、欧米資産運用業界も熱い視線を注いでいる。また、同基金の政策資産配分(ポートフォリオ構成)は国内の多くの公的年金や企業年金が手本としており、その波及効果は大きい。

 半面、未成熟な日本のオルタナティブ市場におけるGPIFは、体を少し揺らしただけで大波を立ててしまう鯨に似ている。一度に投資額を増やせば資産価格を大きく乱す可能性もあり、実際の運用場面では困難も予想される。独立行政法人という横並びの枠組みで人件費を削減され、民間から腕利きのファンドマネジャーを雇うことがままならない組織に、専門性の高いオルタナティブ投資が実行できるのかという素朴な疑問もある。

 さて、今後のスケジュールを読むうえで参考になりそうなのが、過去にGPIFが新興国株式への投資に踏み出した経緯である。同基金は2009年ころに検討を本格化。その後の資産配分決定を経て、2012年7月に実際の運用にあたる投資顧問会社を選定した。検討開始から体制を整えるまで約3年かかっている。すべて順調に行ったとして、これが最短コースと考えるべきだろう。

 先のAIJ投資顧問による年金消失問題をきっかけに、厚労省と国会が長年見て見ぬふりをしてきた厚生年金基金の運用実態にメスが入った。外れ続ける人口予測、非現実的な高水準に固定された政策利回り、運用担当者のギャンブルを許したガバナンスの不在…。ごく一部の零細基金とGPIFを並列に語る訳にはいかないが、どこかに共通の要素はないだろうか。

 国内の年金運用関係者には、今回の動きを冷ややかな目で見る向きも多い。しかし、目の前の現実を直視し、取るべきリスクとリターンを計算すれば、投資先の多様化が有効な解の一つであることは議論の余地がない。

本間 純日経不動産マーケット情報

ページの先頭へ

日経不動産マーケット情報トップニュース > 記事(前のページ)