PR

“慈善投資”の仕組みでシェアを実現

 こんな手間のかかるプロジェクトを遂行した発注者のドラン氏。単なる音楽好きなパトロンなのかと想像したら、これが少々違っていた。ドラン氏は、子供の頃からピアノやクラシックオルガンを習い、教会で演奏をしてきた。近年では作曲を手がけたり、音楽学校の活動に関わったりしている。

 面白いのは、彼が税金のプロであるということだ。税制などを専門にし、本も出版している。ナショナル・ソーダストの設立においては、“慈善投資“という仕組みを活用している。建物をシェア(分担所有)する権利を購入した人からのお金を、NPOに寄付するという仕組みだ。彼はナショナル・ソーダストの賃料は負担していないそうだ。

 Bureau Vの創業者の1人である建築家のザスパン氏も、米国南部の町で育ちオペラ歌手の教育を受けた音楽好きである。この音楽的な共通点があったからこそ、ほとんど実施設計の経験が無かったBureau Vを抜擢するに到ったのであろう。Bureau Vは、それまで洋服のデザインをしたり、舞台美術を担当したり、幅広く“デザイン”に関わっている、正にブルックリンのヒップスターを地で行くような集団のようだ。

様々なジャンルの音楽がここで演奏されることが期待されており、またそれに対応ができるようなしつらえとなっている (Interior of National Sawdust, New York 設計:Bureau V and Arup 写真:Floto + Warner)
様々なジャンルの音楽がここで演奏されることが期待されており、またそれに対応ができるようなしつらえとなっている (Interior of National Sawdust, New York 設計:Bureau V and Arup 写真:Floto + Warner)
[画像のクリックで拡大表示]

 このチームメンバーを見ても、こだわりのある人たちが集まるブルックリンという街の熱気を感じていただけるだろうし、様々な才能が出会い、新しいものが生まれる場面に立ち会った人たちがナショナル・ソーダストのことを“人材のアルケミスト(錬金術師)”と呼ぶのももっとものように思う。

アラップの発表資料

プロジェクト概要

  • 発注者:Kevin Dolan
  • 規模:1200m2
  • 意匠設計:Bureau V
  • 音響設計:Arup
  • 総工費:1600万ドル
菊地 雪代(きくち・ゆきよ)
菊地 雪代(きくち・ゆきよ) アラップ東京事務所アソシエイト/シニア・プロジェクト・マネージャー。東京都立大学大学院工学研究科建築学専攻修了後、設計事務所を経て、2005年アラップ東京事務所に入社。一級建築士、宅地建物取引主任者、PMP、LEED評価員(O+M)。アラップ海外事務所の特殊なスキルを国内へ導入するコンサルティングや、日本企業の海外進出、外資系企業の日本国内プロジェクトを担当。