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フル立体解析の普及

LS-DYNAによる解析モデル (資料:©Arup)
LS-DYNAによる解析モデル (資料:©Arup)
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 3つ目に、解析手法においても大きな差がある。

 日本では、串団子モデル(建物全体を層ごとのマスとシンプルなバネに置換したモデル)で告示波3波と観測波3波の最低計6波に対して時刻歴応答解析を行い、その応答の最大値を包含する静的な地震力を算定、静的解析モデルにこの地震力を入力して断面設計を行う、というプロセスが一般的である。

 一方、米国では、串団子モデルによる解析をほとんど行わず、始めからフル立体モデルを作成し、ETABSやSAP、LS-DYNAといった解析ソフトでフル立体時刻歴応答解析を行う。「どうして串団子モデルで解析を回さないのか?」と聞いたら、「フル立体モデルがあるのになぜ串団子モデルで回すのか?」と返ってきた。思想の違いである。

 また、米国の法規では7種類以上の地震動波形を用いて時刻歴応答解析を行えば、その応答の平均値を設計に使用して良いと定められている。このため、設計では7種類の地震動波形をフル立体モデルに入力して時刻歴応答解析を行い、その応答の平均値を直接設計に用いる、というプロセスが一般的である。このプロジェクトでも、LS-DYNAにおいてフル立体モデルを作成し、数テラバイトにも及ぶフル立体時刻歴応答解析結果を元に設計を行った。

 フル立体モデルによる時刻歴応答解析は、その解析結果の妥当性の検証や、ノイズ的な応答に対する対応、といった難しさはあるものの、コンピューターの性能が飛躍的に伸びている昨今、日本でも一般的になりつつある。どちらかの解析手法を正解として固執するのではなく、状況と必要に応じて両方の手法を柔軟に使い分けられるようになることが、今後設計者として求められる姿であるように思う。

みんなちがって、みんないい

 様々な違いを挙げて来たが、安全な建物を目指す姿勢は日米で変わるものではない。設計手法の違いは安全な建物に至る道程の違いであり、そこに優劣がある訳ではない。詩人の金子みすゞの言葉を借りるなら、「みんなちがって、みんないい」のである。

 「ちがい」の優劣を論じるよりも、互いの「ちがい」に着目することで、その背景にある思想や技術的な相違点を浮き彫りにし、新たな視点として取り入れていく姿勢が肝要であるように思う。

 本稿で取り上げた「ちがい」が、少しでも日本の設計の今後に生きれば幸いである。

富岡 良太(とみおか・りょうた)
アラップ東京事務所/構造エンジニア
富岡 良太(とみおか・りょうた) 京都大学工学研究科建築学専攻修了後、2010年にアラップ東京事務所に入社。2015年より2年間アラップロサンゼルス事務所に勤務後、2017年4月より東京事務所復帰。日本・米国を含めた様々な国のプロジェクトで構造設計に携わる。一級建築士。
菊地 雪代(きくち・ゆきよ)/執筆協力
アラップ東京事務所、アソシエイト/シニア・プロジェクト・マネージャー。2011年9月よりケンプラッツ、日経アーキテクチュア・ウェブにて、アラップが関与したプロジェクト紹介の記事を連載