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悪天候や事故によって人があふれかえった駅構内に居合わせたことがある方も多いだろう。かねてより群集の行動に関する研究が行われ、街や公共施設は非常時も想定して計画されている。今回は「歩行者シミュレーション」の事例を紹介したい。イベントでの交通規制の影響や、災害時に建物から全員が退避する所要時間計測など、シミュレーション結果を設計にフィードバックし、より安全性の高い計画へと進化することができる。海外ではこのシミュレーション結果を提示し安全性を証明した上で、既存の法規に縛られない新たな設計手法で建築許可が下りる例もある。(菊地雪代 氏/アラップ)

災害をきっかけに始まった

 1987年、英国・ロンドンのキングスクロス駅で発生した火災事故は、31人の死亡者と多くの負傷者を出す大惨事となった。この事故をきっかけとしてロンドン地下鉄や鉄道会社は、施設やオペレーションの面で様々な改善が求められ、その一貫として火災時の避難シミュレーションを開始することになった。歩行者モデリングは、このシミュレーションを火災時のみならず、ピークタイムの歩行者シミュレーションにも利用したことをルーツとする。

 90年代半ばになると、駅だけでなく空港などの交通機関でのシミュレーションにも対応した「PEDEROUTE(Software developer :London Underground and Halcrow)」と「PAXPORT(London Underground and Halcrow、現在の権利所有者はLEGION)」というソフトが製品化される。いずれのソフトも歩行者をモデル化して群衆密度を確認することはできるものの、コンコース、ゲート、ラウンジといったそれぞれのエリア内に限定したものであり、歩行者の一連の行動をシミュレーションできるものではなかった。

 その後、次世代のモデリングツールとして、「LEGION(LEGION)」、「Exodus(University of Greenwich)」そして「STEPS(Mott MacDonald)」が開発される。これらソフトは、歩行者の特性を加味した再現性の点で改良が加えられたが、実際には歩行者の意思、歩行者同士の追い越しや交錯などに関して、ユーザーが細かく設定を行う必要があった。

 最新のモデリングツールである「MassMotion」は、Arupが独自に開発したシミュレーションソフトだ。個々の歩行者モデルに人口知能を与えることで、歩行者は複数のルートの中から混雑状況と距離に応じて新たなルートを選定することができる。またユーザーインターフェースを大幅に改良し、CADなどのソフトとの連携を容易としたことで、モデル化の際の負担を大幅に軽減している。これらのアップデートによって、多くの変更を伴う設計段階においても、その変更が歩行環境にどのような影響を与えるのかをより正確にシミュレーションできるようになった。

Oasys(Arupのソフトウエア関連グループ会社)による、MassMotionの紹介動画(資料:Oasys)