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融資、音、メンテナンスが課題に

 内海氏からの一通りの説明を受けて、研究会の委員らが活発な質疑や意見交換を行った(以下、敬称略)。

安達(日経BPインフラ総合研究所)
防耐火木造についての告示が整備された現在、この計画に取り組むとしたらどんなスケジュールになるのか。また仕様や手続きで当時と大きく変わったことはあるか。

内海委員(KUS)
今では耐火認定を取得済みの部材も多く、すぐに設計に取り掛かれる。順調であれば、設計に約半年、工期も1年掛かったものが8カ月くらいで可能になるのではないだろうか。部材としては厚板の集成材をCLT(直交集成板)に置き換えることもできる。

畠中(日経BPインフラ総合研究所)
コストについては、RC造や鉄骨(S)造に比べてどうか。

内海委員(KUS)
この敷地は狭小で変形しており、工事がやりにくくてコストが割高だったという側面がある。仮にS造で建てるとして施工会社に試算してもらったが、同じ程度だった。ただ、当時は木造の中高層建築の経験があまりなかったので、施工会社も余裕をみて見積もりを高く出してきたかもしれない。

松永委員(近代建築研究所)
柱や床といった躯体の耐火被覆をしたことで木は見えない。斜材を木のあらわしにして、木造を印象づけているということか。

内海委員(KUS)
構造としては、水平力に対して合板の耐力壁よりも斜材の方が強いので、地震の際の揺れにはまず斜材が効く。その後で耐力壁が効いてくるという2段構えで評定を受けた。きちんと機能を果たしながら、木をあらわしとすることができた。

伊藤委員(三井住友信託銀行)
融資を行った金融機関は、完成後にどういった印象を持ったのか。

内海委員(KUS)
建築主によると、今回、木造を35年で融資したので、35年の耐久性があるのかという確認もあり、担当者が現場を見学に来た。

伊藤委員(三井住友信託銀行)
金融機関にとっては、木造は法定耐用年数が融資のネックになっている。一方で、太陽光パネルを設置するなど省エネ性能が高い建物には融資できるが、木造というだけではまだ突破できていない。耐火木造について、新たに耐用年数が長く設定されればやりやすい。ただ、これは銀行だけでやれることではない。

今井委員(アーク不動産)
昨年度の研究会でも同じ議論があった。設計者は木造をやりたいし、デベロッパーも木造にチャレンジしたい。しかし、いざ融資という段階で木造が障壁になる。また、耐用年数が長いと良いかというと、そうとばかりも言えない。例えば黒字の企業によっては耐用年数が短くて減価償却が短い方が良いというところもある。半面、REIT(不動産投資信託)物件では単年の償却が少なく、配当を多くしたいという思惑のところもある。

小原(日経BPインフラ総合研究所)
入居者の木造への意識はどうか。

内海委員(KUS)
完成直後はなかなか入居者が決まらず苦労した。なぜなら、一般的な不動産情報サイトだと、木造はアパートと分類されてしまう。それなのに、新築マンション並みの賃料で出ている。しかも、掲載間取り図はFIXのガラスカーテンウオールを壁として表記する。まるで窓のない変な形の木賃アパートだ。そこで、個性的な不動産を扱うサイトで紹介してもらい、ようやく入居者が決まっていった。その一方で、木造であることをネットで知って、興味を持って入居した人もいる。

服部(林野庁)
デザイナーズマンションのような、デザイン性にも付加価値の意義を見いだすような人に訴える方法もありそうだ。

伊藤委員(三井住友信託銀行)
木造であることで、付加価値のある賃料は取れるのか。

内海委員(KUS)
それは難しい。やはり近隣のマンションの賃料相場と同水準だ。

服部(林野庁)
不動産鑑定評価についてはどうだろうか。

伊藤委員(三井住友信託銀行)
現状はきちんと賃料を稼げているので問題ないが、10年後の資産価値はどうかという問題がある。木造の耐用年数が20年程度というと、かなり下げて評価するのが従来のやり方。銀行に限らず不動産マーケット全体の傾向だ。ただし不動産評価の世界も変わりつつある。インスペクションなどで建物の中身をきちんと見て評価していこう、と査定の仕組みも変わってきている。

服部(林野庁)
住宅金融支援機構は木造住宅についてフラット35で35年ローンを提供している。また、住宅性能表示制度においても、劣化対策等級が3であれば、おおむね75~90年までを想定した施工技術について法的に確立されたものがある。法定耐用年数とは別に、そうした建物をきちんと評価して、融資や流通価値の評価につなげていくべきだろう。

今井委員(アーク不動産)
大手銀行はなかなか厳しいが、地方銀行などは生活者目線寄り、信託銀行は所有する不動産の運用を重視しようという意識もある。銀行でも立場によっていろいろな違いがある。

後藤委員(日本不動産研究所)
収益物件であればきちんと賃料が取れること。木造でも、例えば相場より高く貸せる、空いてもすぐに埋まるというような経験が積み上がってくれば、見方も変わっていくだろう。

柳瀬オブザーバー(三菱地所レジデンス)
つくり手側としては、クライアントから「この建物は何年持つのか」と聞かれた時に答えられないのは問題だ。RC造であれば、部材ごとの耐用年数の積み上げで耐用年数を出せるのだが…。

服部(林野庁)
集成材など木を加工した材料への不信感もあるようだが、研究者からはRC造の60~70年と同様あるいはそれ以上にかなり長く持つという見解を得ている。

内海委員(KUS)
これまでのストックを検証すると、木造やRC造の耐用年数というのは出てくる。それによると、木造の方がRC造より寿命は長い。ただ、これは耐久性ではなくて、社会的な耐用年数がRC造の方が短くて、物理的な耐用年数ではなくて早く壊されているということだろう。モノとしての耐久性を積み上げるだけでも、実際の耐用年数は違ってくるのではないか。

柳瀬オブザーバー(三菱地所レジデンス)
RC造の場合、躯体の耐用年数よりも、設備の耐用年数の方が短い。同じようなことが木造でもあるだろう。設備の耐用年数より躯体の耐用年数が長いということが証明できればよい。そこの明確な裏付けがないのだろうか。

服部(林野庁)
メンテナンスの頻度は、ほかの構造より木造の方が早い。そういう面の不安もあるかもしれない。

松永委員(近代建築研究所)
木造は、梁と柱、斜材と柱などの接合部が多い。それが、風圧や地震などで揺れて、長い期間には緩んでくる。このことはどうしようもない。そうすると、10年とは言わないが、ある期間で増し締めをしなければならない。大型木造では、接合部にセンサーを埋め込んでモニタリングするなどの対応が大切になってくる。

小原(日経BPインフラ総合研究所)
引き渡し後のメンテナンスはどうしているのか。

内海委員(KUS)
1年後の点検は行った。あとは、管理会社と相談しながらということになる。センサーは取り付けているので、大きい地震の後の挙動がどうなったかなどを検証できるようにしている。

三村オブザーバー(三菱地所)
木の床ということだが、音の問題はどうか。

内海委員(KUS)
住まい手は「気にならない」と言っている。実地で計測もしたが、例えるなら、少し古いRC造の賃貸マンション程度だ。

今井委員(アーク不動産)
当社の例では、木床は広さで音の伝わり方が変わってくる。ワンルームのように狭いと音は気にならず、スパンが長く広くなると揺れやすく、音が伝わりやすいようだ。

松永委員(近代建築研究所)
公共施設やオフィスビルと違って、住宅だと音の問題はクローズアップされがちだ。ただ、周辺環境の音がどのくらいあるかでも印象は違うだろう。

服部(林野庁)
この建物のとても良いところは、火事と地震は一緒に来ないという考え方で、鉛直荷重を受けない斜材については耐火被覆がいらずに木をあらわしで使ったことにある。木が見えることで、木の建築、魅力というのを印象づけることができたと思う。

「中高層建築への木材利用促進の可能性について検討する研究会」委員、林野庁木材産業課を交えて質疑を行った(写真:菊池一郎)
「中高層建築への木材利用促進の可能性について検討する研究会」委員、林野庁木材産業課を交えて質疑を行った(写真:菊池一郎)
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室内を見学する研究会のメンバー(写真:菊池一郎)
室内を見学する研究会のメンバー(写真:菊池一郎)
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建物外周に設けた共用階段(写真:菊池一郎)
建物外周に設けた共用階段(写真:菊池一郎)
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木の斜材越しに、駒沢通りを見る。木があらわしになっていることで、建物が木造であることが意識される(写真:菊池一郎)
木の斜材越しに、駒沢通りを見る。木があらわしになっていることで、建物が木造であることが意識される(写真:菊池一郎)
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1階のテナント部はRC造。その上に木造による集合住宅が4層ある(写真:菊池一郎)
1階のテナント部はRC造。その上に木造による集合住宅が4層ある(写真:菊池一郎)
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区道側から見た「下馬の集合住宅」。集合住宅のエントランスは区道側に設けている(写真:菊池一郎)
区道側から見た「下馬の集合住宅」。集合住宅のエントランスは区道側に設けている(写真:菊池一郎)
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建築概要

  • 建物名称:下馬の集合住宅
  • 建物用途:共同住宅、貸し店舗
  • 地域・地区:近隣商業地域、準防火地域
  • 建ぺい率:75.55%(許容80%)
  • 容積率:268.83%(許容300%)
  • 敷地面積:122.89m2
  • 建築面積:92.84m2
  • 延べ面積:372.15m2
  • 構造:鉄筋コンクリート造(1階)、木造(2〜5階)
  • 耐火性能:2階以上は1時間耐火
  • 高さ:最高高さ15.8m、軒高15.52m
  • 建築主:個人
  • 設計:KUS一級建築士事務所(小杉栄次郎、内海彩)
  • 設計協力者:teamTimberize(桜設計集団(構造、防耐火)、東京大学生産研究所腰原幹雄(構造))、長谷川設備計画(設備)、フォーライツ(照明)、氏デザイン(サイン)
  • 施工者:大和ハウス工業
  • 設計期間:2004年2月〜11年3月
  • 施工期間:2012年8月〜13年9月
  • 総工費:約1億8000万円
2016年度第1回「中高層建築への木材利用促進の可能性について検討する研究会」

委員(敬称略)

伊藤雅人(三井住友信託銀行不動産コンサルティング部審議役)、伊藤康敬(三菱地所住宅業務企画部参事)、今井邦夫(アーク不動産開発事業部部長)、内海彩(KUS代表取締役、チーム・ティンバライズ理事)、後藤健太郎(日本不動産研究所研究部次長)、小林道和(竹中工務店木造・木質建築推進本部副部長)、近藤昭(桧家ホールディングス代表取締役社長)、出口俊(住友林業木化営業部営業チーム係長)、藤田譲(中大規模木造プレカット技術協会監事)、松永安光(近代建築研究所代表取締役、HEAD研究会理事長)

オブザーバー(敬称略)

柳瀬拓也(三菱地所レジデンス都心・城南用地部用地第二グループ主任)、三村翔(三菱地所住宅業務企画部副主事)

林野庁(敬称略)

香月英伸(林政部木材産業課調査官)、服部浩治(林政部木材産業課木材製品技術室課長補佐)、中村誠(林政部木材産業課木材製品技術室住宅資材企画係長)、原章仁(林政部木材産業課木材製品技術室住宅資材技術係長)、宮部大輝(林政部企画課総括課長補佐)、西尾悠佑(林政部木材利用課木質バイオマス第1係長)

事務局

安達功(日経BP社日経BPインフラ総合研究所所長)、畠中克弘(日経BP社日経BPインフラ総合研究所上席研究員)、小原隆(日経BP社日経BPインフラ総合研究所上席研究員)、米倉肇(日経BP社クライアントマーケティング2部次長)、鈴木はるか(日経BPコンサルティングブランドコミュニケーション部)、村島正彦(studio harappa代表)