職業別の短期消滅時効等の廃止

 現行民法は、債権の消滅時効について、原則的な時効期間を10年としつつ、1年、2年、3年の職業別のさまざまな短期消滅時効の特則を置いている。この短期消滅時効については、それぞれの規定の適用範囲が不明確であることや、他の債権との区別が合理的とは言い難いことなどの問題点が指摘されていたことから、改正民法ではこれらの規定を削除した。

 建築実務との関係では、現行民法の下では「工事の設計、施工または監理を業とする者の工事に関する債権」は3年で消滅時効にかかるとされていた(現行民法170条2号)。これに対して改正民法は、後述する一般的な消滅時効期間(改正民法166 条1項)に従うこととなる。

改正民法第166条(債権等の消滅時効)

1 債権は、次に掲げる場合には、時効によって消滅する。

 一 債権者が権利を行使することができることを知った時から5年間行使しないとき。

 二 権利を行使することができる時から10年間行使しないとき。

 職業別の短期消滅時効の規定を削除するだけでは、債権の時効期間が10年と大幅に長期化するとの懸念がある。そこで、「権利を行使することができる時から10年」という現行民法の制度の時効期間を維持したうえで、「権利を行使することができることを知った時から5年」の時効期間を新たに追加した。

 これにより、債権発生の時点から権利を行使できることを知っている債権者については、知った時から起算される5年間の時効期間が適用され、権利を行使することができることを知らない債権者については、現行制度と同じ10年の時効期間が適用される。

 「工事の設計、施工または監理を業とする者の工事に関する債権」について、3年の短期消滅時効期間が廃止されることは既に述べたとおりだ。ただ、債権者は、基本的に債権発生の時点から権利を行使できることを知っているものと考えられるため、請負人の工事代金債権等については、5年間の時効期間が適用されることになるだろう。

 改正民法では、生命・身体を侵害された被害者の保護を図る見地から、損害賠償請求権の時効期間を長期化する特則を設けている(改正民法167 条と同724条の2)。

 具体的には、生命・身体の侵害による損害賠償請求権については、債務不履行の場合も不法行為の場合も、権利を行使することができることを知った時から5年間、権利を行使することできる時から20年間とされている。

改正民法 第167条(人の生命または身体の侵害による損害賠償請求権の消滅時効)

人の生命または身体の侵害による損害賠償請求権の消滅時効についての前条第1項第2号の規定の適用については、同号中「10年間」とあるのは、「20年間」とする

改正民法 第724条の2(人の生命または身体の侵害による損害賠償請求権の消滅時効

人の生命または身体を害する不法行為による損害賠償請求権の消滅時効についての前条第1号の規定の適用については、同号中「3年間」とあるのは、「5年間」とする。

 ただ、住宅会社が建設した住宅に瑕疵があると分かっていたにもかかわらず、公表しないまま20年が経過している場合は、援用しても「信義則違反に当たる」として認められない恐れがある。いざというときに援用の力を発揮できるよう、住宅会社は過去の瑕疵は隠さず、情報公開に務めることが賢明だ。