古い空き店舗や土蔵が壊れ、広い範囲で瓦が落下──。10月21日に発生した鳥取県中部地震では、こうした被害が生じた。内陸直下で起きた横ずれ断層型の地震で、最大震度は6弱、地震の規模を示すマグニチュードは6.6。震度6弱でも、地区によって建物被害の生じ方に違いが見られたことも特徴だ。
震度6弱を観測した鳥取県北栄町では、全壊と半壊の木造建物が計65棟あった(11月10日時点)〔図1と2〕。
〔図1〕震度6弱が観測された地点
(資料:日経ホームビルダー)
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〔図2〕鳥取県中部地震の建物被害棟数
住宅と非住宅の件数は市町が集計したもの。罹災証明の結果とは異なる。非住宅は蔵や空き家、倉庫などで公共施設と文教施設以外を指す。数字は11月10日時点の集計値(資料:日経ホームビルダー)
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北栄町由良宿地区に建っていた空き店舗は、地震で1階が大きく傾き、隣に建つ店舗併用住宅の屋根や外壁を壊した。さらに11月27日の余震で1階が層崩壊して、前面道路を塞いだ。壁は土塗りで壁自体が少なく、柱には腐朽が見られた。周りには旧耐震基準と思われる古い建物が複数あるが、倒壊したのはこの建物だけだ〔写真1〕。
〔写真1〕空き店舗が倒壊し隣家も巻き込まれた
上の写真は、北栄町由良宿地区にある老朽化した空き店舗が、地震で傾いた際、右隣の店の外壁とガラスなどを壊した様子。左下は、余震で道路側に倒れた空き店舗を、急いで解体撤去している様子。右下は空き店舗の柱脚部。木ずりの土壁と柱に腐朽が生じていた。金物は確認できなかった(写真上と右下は鳥取大学の向坊恭介助教、写真左下は日経ホームビルダー)
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北栄町ではほかにも、旧耐震基準で壁が少ない住宅が傾き、隣家の住民が避難したり〔写真2、3〕、木部が腐朽している古い土蔵が倒壊して道路を塞いだりする被害〔写真4〕を複数確認した。旧耐震基準の建物が、周囲に被害を拡大させない対策の必要性が浮き彫りになった。
〔写真2〕隣家の倒壊を恐れ住民が避難
写真左側の比較的新しい住宅は軽微な被害で済んだものの、右側の老朽化した住宅が傾き、余震で倒れ掛かるリスクを被った。左側の住宅には、「要注意」と記された被災建築物応急危険度判定の黄色い紙が張られていた。この家の住民は、一時避難していた(写真:日経ホームビルダー)
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〔写真3〕壁量不足で柱が座屈
北栄町下神地区に建つ築50年の古民家は、ねじれるように大きく傾き、奥の別棟にぶつかっていた。1階は壁が少なく複数の柱が座屈していた(写真:日経ホームビルダー)
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〔写真4〕古い土蔵が道路側に倒壊
北栄町西園地区で土蔵が倒壊し、細い道路が通行止めになっていた様子。避難経路を塞いでいる。土蔵の土壁は劣化が進んでいたと思われる。接合部に金物は確認できなかった(写真:日経ホームビルダー)
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北栄町でこうした古い木造建築の大きな被害が目立つことについて鳥取大学大学院教授の香川敬生さんは、地震動の影響があると見る。「一般的な木造住宅の固有周期は0.3~0.5秒が多い。これに対して北栄町で観測された地震動は周期0.3~0.5秒の成分が小さく、1~2秒が大きかった。そのため、もともと剛性が低く、固有周期が1~2秒に近い建物だけが壊れた可能性がある」と香川さんは分析する〔図3〕。
〔図3〕鳥取県中部地震の加速度応答スペクトル
(資料:鳥取大学工学部土木工学科地圏環境工学研究室)
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香川さんはさらに、北栄町で周期1~2秒が大きい地震動が観測されたのは、表層地盤と関係していると推測する。「鳥取大学では県内の各地で地盤の特徴を示す卓越周期を常時微動で測定しており、北栄町の西側は周期1秒くらいが卓越していた。その影響で周期1~2秒の揺れが増幅した可能性がある」と話す。