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設計者自ら出資者を探す

 田根氏は「これまでパリで行われたコンペと違い、特殊な印象があった」と振り返る。参加条件として設計者とプロモーターが必ず組まなくてはならなかったからだ。プロモーターは資金を出し、建設後も運営できる事業者で、業種を問わない。

 DGT.が設計を手掛ける事業では、土地を市が購入し、建設費や設計費などはプロモーターが負担する。設計者自ら企業などを説得して回り、プロモーターを探し出した。

 既存の建物や敷地のみを与条件とし、建物の用途の選択を提案者に委ねたことも異例だった。「通常はあらかじめ用途が決まっている。使い方から民間に提案させる手法は極めて珍しい」(田根氏)

 DGT.はパリ市内の17区と13区の2カ所に応募。そのうち13区のメッセナ駅を再活用する「Realimenter Massena(メッセナ食の循環)」という案で勝った〔図4〕。

〔図4〕築150年の廃駅を食の拠点に
〔図4〕築150年の廃駅を食の拠点に
現地メディアはDGT.の提案を「食のバベルの塔」などと報じ、食の生産者と消費者の対話をコンセプトとした点を伝えていた。左の図は外観イメージ、右上の写真は展示模型を撮影した。敷地南北の高低差を生かす計画だ。右下の図は屋上農園のイメージ(資料:DGT.)
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 1863年に建てられたメッセナ駅は、2001年に廃駅となった。その後は活用されず、周囲の開発から取り残されていた。DGT.は改装した駅舎と、隣の空き地に新築する建物の2棟を一体的に利用する案を示した。

 敷地の前にはトラムなどが走る広い通りがある。そのため建物の下層には、レストランやマーケットなど街に開かれたパブリックスペースなどを配置する。中層は、栄養学をはじめとした食に関する専門的な研究施設を入れる。上層には屋上農園を置き、都市の中で食物を育て、学び、消費するサイクルをつくり出す。

 テラスから植栽や農園の木々が露出し、建物全体が緑に覆われるイメージだ。しかも建物の大半は木材でつくる計画。市長は「エコロジカルなバベルの塔になる」と期待する。

 田根氏はコンペの勝因を次のように分析する。「パリ市は環境対策やサステナビリティーを強く打ち出している。我々はそれを一般論で語るのではなく、パリの魅力である食を通じて提案した。建物と使い方の両方で魅力的なイメージを出した点が評価されたと思う」