国連教育科学文化機関(ユネスコ)世界遺産委員会の諮問機関であるイコモスが、出雲大社(島根県出雲市)が進める「庁の舎(ちょうのや)」の解体計画に対して「危機遺産警告」を発令。計画の中止と修繕・保存を検討するよう求めた。国内の建造物に同警告が発令されたのは初めてだ。
危機遺産警告とは、世界遺産に登録される可能性がある重要な文化遺産だということを知らせるものだ。警告では、イコモスの専門家が庁の舎の保存に向けて協働すると申し入れた。庁の舎は建築家、故菊竹清訓氏の初期の代表作で、建築界からは保存を求める声が強い。
出雲大社の庁の舎は鉄筋コンクリート造・平屋建て(一部中2階)、延べ面積631m2で、1963年に完成した。新陳代謝を意味する建築理論「メタボリズム」を具現化した代表的な建築の1つだ。これまで日本建築学会賞やBCS賞などを受賞したほか、2003年にはドコモモ・ジャパンによって日本を代表する重要な近代建築100選に選出された〔写真1〕。
出雲大社が庁の舎を解体することを決定したのは3月。雨漏りなどによる建物の劣化が激しかったためだ。 庁の舎では完成当初から、雨漏りが深刻な問題だった。出雲大社は、9月下旬にウェブサイト上で表明した庁の舎取り壊しに対する見解のなかで、「継続的に修理を重ねてきたが、その累積費は既に建設費を上回っている」と説明している。
宝物展示場だった建物南側は雨漏りで宝物を展示できなくなり、宝物館を新設した経緯がある。出雲大社によれば、庁の舎は経年劣化も激しく、躯体コンクリートには多数の亀裂が走るなど耐震性に問題がある。
「解体は揺るがず」と出雲大社
イコモスの専門委員を務める東京理科大学の山名善之教授は、「庁の舎は光を取り込むルーバー屋根など、技術的な挑戦が多い。ディテールの見直しのほか、コンクリートやガラスの表面処理など適切な措置をとれば保存もできるのではないか。文化財指定を受ければ公費を投入できるので、早急に壊すという判断をせず、立ち止まってほしい」と話す。
一方、出雲大社の川谷誠一総務部長は日経アーキテクチュアの取材に対し、「解体は揺るがず、指定文化財を目指す可能性も無い。建物には様々な問題があるのにイコモスは雨漏りの問題しか言及していない。保存を求める団体も口先ばかりで、修繕にかかる費用の試算提案も無い。協力の姿勢がみられない」と回答した。
出雲市文化財課は出雲大社から「10月ごろには解体工事に入りたい」という話を受けたという。ただし、現時点では解体の時期は明らかになっていない。