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陥没した道路に近接する新築住宅が不同沈下した。住宅を建設した住宅会社が、宅地に開発許可を出した自治体に建設費相当の損害賠償を請求。一審は自治体の責任を認めたが、二審は否定した。(日経アーキテクチュア)

 地盤沈下や液状化による宅地や建物の被害をめぐって、設計者や施工者、許認可に関わった行政などが損害賠償を請求される訴訟は珍しくない。東日本大震災における液状化で不同沈下した戸建て住宅の所有者らが、住宅の販売主であるデベロッパーを訴えた事例が記憶に新しい。

 今回は、地盤沈下による被害に対し、行政が損害賠償を請求された事例を取り上げる。一審では行政の賠償責任が認められたが、二審では否定された。地盤トラブルの難しさとともに、開発許可という行政の「お墨付き」がある土地でも、設計や施工に油断は許されないことを示す事例だ。

沈下で住宅所有者は転居

 一審の判決文などによると、戸建て住宅の所有者が、積水ハウスと工事請負契約を締結したのは、2006年1月29日。請負代金は3127万7892円だった〔図1〕。

〔図1〕開発許可を出した津市に3100万円の損害賠償を請求
〔図1〕開発許可を出した津市に3100万円の損害賠償を請求
事件の構図。不同沈下した戸建て住宅を施工した積水ハウスが、住宅所有者から損害賠償請求権を譲り受け、宅地に開発許可を出した津市を相手取り、建設費相当の3100万円の損害賠償を請求した(資料:判決文をもとに日経アーキテクチュアが作成)
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 その直後、住宅の敷地周辺で陥没や沈下が相次いだ。06年7月には近隣の道路で東西約25m、南北約20mにわたって最大深さ約3mの陥没が発生。完成後の10月には、この陥没地点の南西約30mの地点にある戸建て住宅の敷地に亀裂や沈下が発生。所有者は住宅に居住できなくなり、転居を余儀なくされた。

 積水ハウスは所有者からこの沈下事故について損害賠償権を譲り受け、開発許可を出した津市を相手取り、建設費相当の3127万7892円の損害賠償を求めて津地裁に提訴した〔図2〕。開発許可や開発行為の検査済み証を出す際に予想される陥没などを防止すべき注意義務を怠り、戸建て住宅の所有者に損害を与えた、というのが訴えの理由だ。

〔図2〕原告が一審では勝訴、控訴審では逆転敗訴
2006年1月 原告(被控訴人)である積水ハウスが、住宅所有者と工事請負契約を締結。請負代金は3127万7892円
2006年7月 津市半田地区の道路で東西約25m、南北約20mにわたり最大深さ約3mの陥没が発生。周辺の土地上に建っていた建物が傾斜し、水道管が破損。同じ場所で9月にも東西約2.5m、南北約4.5mにわたって最大約1mの陥没が発生
2006年10月 7月に陥没した場所から約30m離れた地点で亀裂が発生し、住宅の敷地が沈下
2009年6月 積水ハウスが住宅所有者から津市に対する損害賠償請求権を譲り受ける
2009年10月 積水ハウスが津市を相手取り、住宅の建設費に相当する3127万7892円の損害賠償を求めて提訴
2012年3月6日 津地方裁判所が津市に対し、住宅の建設費に相当する3127万7892円の損害賠償を支払うよう命じる
2016年7月28日 名古屋高等裁判所が原審の判決を取り消し、原告(被控訴人)である積水ハウスの請求を棄却
(資料:判決文をもとに日経アーキテクチュアが作成)