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 一足早く五輪を体感――。日本スポーツ振興センター(JSC)は10月13日、2020年東京五輪のメーンスタジアムとなる新国立競技場の実物大検証模型(モックアップ)を報道陣に公開した。製作したモックアップは「大庇・軒庇」と「観客席・スタンド出入り口」。敷地南側の現場事務所近くに設置している。

 JSCは「大庇・軒庇、観客席はデザインの重要な要素になる。他のスタジアムでは見られない独自性と特徴を示す部分であるため、実物と同じ大きさで作成し、図面上ではイメージできない部分の納まりや、大きさや色・質感、使い勝手などを検証する」と説明する。

 大庇と軒庇のモックアップでは、ルーバーの設置幅や色調を変え、スタジアム外観の見え方がどのように異なるかを確認している〔写真1〕。

〔写真1〕大庇のルーバーはアルミ材
〔写真1〕大庇のルーバーはアルミ材
大庇(写真上)と軒庇のモックアップ。実際のルーバーの長さは9mあるが、モックアップでは4.5mとした。大庇にはアルミを木目調に塗装した部材を使用。スタジアムの南北でルーバーの設置間隔を変える(写真:日経アーキテクチュア)
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 建物の最上部に設ける大庇は、通風口の役割を果たす。軒裏のルーバーはスタジアム南側で間隔を狭く、北側で広く設置する計画だ。夏の卓越風を観客席に導き、冬の北風を屋根側に受け流す仕組みだ。観客席の気温を外気より1、2度ほど夏は涼しく、冬は暖かく調整できる。

 大庇のルーバーはアルミ材で、焼き付け塗装で木目を再現する。これに対し、中層部に設ける軒庇のルーバーには、全て国産のスギ材を用いる計画だ。モックアップでは、大庇のルーバーについて試験的に、白っぽい色から赤みがかった色まで5種類の塗装を施した。新国立競技場で使う木材は、白色に近いものが多いため、「赤みが強い色はあまり合わない」との声が出ているという。

5色の椅子をモザイク状に配置

 観客席のモックアップでは、座席の色彩やサイズなどの確認に加え、観戦時の動線の視認性や手すりの安全性などを検証している。

 新国立競技場のスタンドは3層構造。観客席は樹脂製の椅子で、白、黄緑、グレー、深緑、濃茶のアースカラー5色とする。これらの椅子をモザイク状に組み合わせて配置することで、観客席全体を「森の中に落ちる木漏れ日」のように見せる。スタンドの1層目、2層目、3層目と濃淡を付ける配色とする。設計者の隈研吾氏が目指す「杜(もり)のスタジアム」の内観の演出だ。観客席の配色を単一にしないことで、空席を目立ちにくくする工夫でもある。

 モックアップでは、最も角度が急になる3層目のスタンドの観客席を想定した。JSC新国立競技場設置本部の下野博史総括役は「2層目からは手すりを設置する必要がある。座ったときの感覚や、フィールドの見え方も検証している」と説明する〔写真2〕。

〔写真2〕観客席は「森の木漏れ日」をイメージ
〔写真2〕観客席は「森の木漏れ日」をイメージ
モックアップについて説明する日本スポーツ振興センター新国立競技場設置本部の下野博史総括役。樹脂製の椅子はアースカラーの5色を用意。モザイク状に配置する。「森の木漏れ日」のように見えるよう、1層目から3層目にかけてグラデーションをつける(写真:日経アーキテクチュア)
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 椅子は横幅45cm、奥行き25cm。前の座席との間隔は56cmを確保している。記者が座ってみると、前後はそれなりに余裕があった。手すりは両手を前に出すと、少し前傾になって体を預けられるくらいの位置にある。大きな体格の人が立ち上がらない限り、競技が見えないということはなさそうだ。

UDの検証にも注力

 ユニバーサルデザインの検証にも力を入れる。JSCは年初から4度、ワークショップを開催。車椅子利用者の意見を取り入れ、電動車椅子用の充電スポットを準備することにした。車椅子席のモックアップでは充電しやすさを検証。コンセントの位置や蓋の形状などを調整し、施工者にフィードバックする〔写真3〕。

〔写真3〕車椅子利用者の声を反映
〔写真3〕車椅子利用者の声を反映
車椅子席のモックアップ。利用者からの声を踏まえ、コンセントの位置や蓋の形状などを改善している(写真:日経アーキテクチュア)
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 スタンド出入り口のモックアップでは、視覚障害者用の点字ブロックや階段の段鼻の見え方を確認。特に点字ブロックは突起のタイプが異なる2種類を設置して、識別しやすさなどを確かめている〔写真4〕。

〔写真4〕点字ブロックの識別しやすさを検証
〔写真4〕点字ブロックの識別しやすさを検証
スタンド出入り口のモックアップ。人の流入が多い場所のため、点字ブロックの識別のしやすさなどを検証している(写真:日経アーキテクチュア)
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 JSCはこの日、設計・施工者の大成建設・梓設計・隈研吾建築都市設計事務所共同企業体が作成した縮尺150分の1の施工手順説明模型も公開した。基礎工事から鉄骨工事、スタンド工事、屋根工事を経て完成に至るまでの流れを表現している。屋根工事でユニット鉄骨を支える仮設支柱なども詳細に製作しており、現場作業員の研修などに活用しているという。