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 英国の建設業界は2012年のロンドン五輪以降、受注競争が激化したうえ、労働者不足によるコスト上昇が続いていた。そうした背景は、日本と似ており、参考となる点は多い。

 2018年1月、英国の巨大建設会社カリリオンが突如、経営破綻した〔写真1〕。約3万社に及ぶ下請け会社などは、17年末のクリスマス前から工事金が支払われていないという。

〔写真1〕建設事業やFM事業など多角展開していたカリリオン
〔写真1〕建設事業やFM事業など多角展開していたカリリオン
英国2位の規模を誇る建設会社カリリオンが2018年1月に破綻した。建設事業以外に、ファシリティーマネジメント事業などの公共サービスも数々受注していた(写真:ロイター/アフロ)
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 2月6日、英国の国会で聴聞会が開かれた。現地報道によれば、聴聞会でカリリオン暫定CEOであるキース・コクレーン氏は、同社の経営破綻について次の理由を陳述した。

 病院における2件のPFI事業で、契約上の失敗からコストが超過。11年に省エネルギー会社を買収したが、その負債額が異常に膨らんだ。さらに、カタール・ドーハにおける大型再開発案件で契約内容を巡るトラブルが発生。英国のEU離脱や17年の総選挙など、社会・経済環境の変化も追い打ちをかけたとした。

 つまり、同社は厳しい受注競争にさらされるなかで、(1)安値受注による業績赤字、(2)新規事業拡大のための企業買収の損失、(3)海外事業における工事代金回収の失敗、によって破綻に至ったといえる。

建設とFMなど2つの面を持つ

 カリリオンは、英国2位の規模を誇る建設会社だった。同国内に約2万人、カナダなど英国外で約2万3000人の従業員を抱えていた。

 事業では大きく2つの面を持っていた。1つは、建築・土木工事で病院や道路、高速鉄道など公共施設やインフラの大型工事を手掛ける建設会社の側面だ。代表的な建築に、ロンドンの「テート・モダン」(ヘルツォーク&ド・ムーロン設計、00年開業)などがある〔写真2〕。

〔写真2〕英国を中心に世界で大規模建築などの施工を担ってきた
〔写真2〕英国を中心に世界で大規模建築などの施工を担ってきた
英国・ロンドンにある近現代美術館「テート・モダン」は、カリリオンが施工を担当した建築の1つだ。テムズ川沿いにかつてあった「バンクサイド発電所」を改修した(写真:アフロ)
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 もう1つの事業は、建物のメンテナンスや警備、学校給食の提供や刑務所内の保守管理などの公共運用サービスを受注するファシリテイーマネジメント(FM)会社の側面だ。英国の公共サービスのうち、FM事業で同社が受注した案件は約450件に上る。そのなかには、刑務所や病院などの運営サービスも含まれていたので、同社が破綻したニュースは地域社会にも大きな不安を与えた。

 16年の同社の業績は、全体売上額が前年比で約42億ポンド(約6300億円)と約14%上昇。だが利益は逆に約5%減の約1億4700万ポンド(約218億円)と低下した。

 英国の建設市場は、08年にリーマン・ブラザーズの破綻に端を発した世界金融危機の影響を受け、12年のロンドン五輪後も厳しい競争入札が相次いでいた。カリリオンは工事の受注額を確保するために安値受注を繰り返した。その一方で、受注後の工事コストが上昇し、利益を大きく圧迫した。

 コスト高の要因は、ここ5年間で英国内の建設労働者の不足が著しく、人件費が約17.6%も高騰したことにある。さらにポンド安が進んだことにより、輸入資材が値上がりして資材費も約6.7%上昇した。

 また、同社はかなり前から企業買収も進めていた。そうした負債額も経営の大きな足かせとなった。

海外の契約トラブルが引き金

 最終的に経営破綻の大きな引き金となったのは、海外事業の失敗だ。09年、カタールの首都ドーハにある「ムシュアーブ・ダウンタウン」というエリアで、大型再開発事業の工事の一部を4億9300万ポンド(約735億円)で受注。しかしその後、契約トラブルが相次いだ。

 当初の工期は2年半の予定だったが、7年以上に延期。発注者は設計者を3回も替え、8カ月間で図面を4万枚も追加発行したとカリリオンの前CEOのリチャード・ハウソン氏は国会での喚問で陳述している。

 再開発事業の規模は2倍に膨れ上がり、設計変更数は2500に上った。発注者からの支払いも滞り、18カ月間、全く支払われなかったという。同社は発注者に、設計変更と工期変更を認めて工事代金を支払うように再三要求したが、発注者はこれを拒否。最終的に2億ポンド(約300億円)の支払いが滞った。

 結果、17年の負債額は8億ポンド(1190億円)以上に膨らんだ。そして18年1月、巨大建設会社にもかかわらず、手持ち資金はわずか2900万ポンド(43億円)しか残っておらず、運転資金がショートして清算申請に追い込まれた。

 現在、活況を呈している日本の建設市場も、20年以降は労務費の高騰や投資の減少が起こる可能性があり、決して楽観視できる状況にはない。大手建設会社のなかには、東京五輪後の需要減を見据え、新規事業への参入や積極的な海外進出を図る動きも出てきている。我々がカリリオン破綻から学ぶものは多い。